コミュニティの活性化をITで支援
──「情環融合」を進めることはわかりましたが、一方で、大久保さんが社長に就任されたことから、やはり文教ITを重点分野として捉えておられるという印象を受けます。 大久保 文教ITは、成長の大きなエンジンの一つになってもらわないといけない分野です。2020年までに、公教育の児童生徒1300万人に、一人1台の情報端末をもたせるという方針は決まっているので、事業としてのポテンシャルは大きいと考えています。ただ、越えなければいけない壁があるのも事実です。
──具体的にどんな課題がありますか。 大久保 まずは、1300万台の端末を誰がどう管理するかという問題があります。あとはコンテンツをどういうかたちで供給するか、ネットワークをどう整理するか、さらにはコンテンツそのものをどう整備するかという問題もあります。
当社は、子どもたち、先生、教育委員会など、お客様の視点で教育現場へのIT導入を長年サポートしてきたという自負があります。これらの問題に対して適切にアドバイスできるノウハウをもっているので、文教市場では大きなアドバンテージがあると思っています。
──ビジネスチャンスの拡大に伴って、販路も広げることになるのでしょうか。 大久保 そうですね。学校向けのITの提案は、地域の事情に精通したベンダーでなければ難しいものがあります。もともと各地の有力なパートナーとは連携していますが、とくに首都圏、近畿圏以外の地方で、教育の現場に強い新たなパートナーを開拓したいと考えています。
また、当社の自治体向けシステムを扱うパートナーとの連携も、有力な選択肢になるでしょう。学校は、地域のコミュニティの中心です。これを有効活用できなければ、街の元気がなくなってしまう。自治体向けシステムは、マイナンバー制度(社会保障・税番号制度)やオープンデータの動きを受け、改修が進みます。これに合わせて、学校のIT化や、図書館向けのITソリューションを包括的に提案することで、活気のある街づくりに貢献できると考えています。少子高齢化が進むなかで、元気なコミュニティを実現するためにITが果たす役割は大きいのです。
2021年以降にいかに備えるか
──次期中期経営計画では、何を目指しますか。 大久保 当社は大半が国内の売り上げです。その意味では、2020年の東京五輪まで、公共、オフィス、情報のいずれも需要増は期待できるでしょう。文教IT市場の成長とも時間軸は一致します。問題は、その後です。2021年以降、日本経済は厳しい状況になると予想できるので、そこをいかに生き残り、成長できる体制をつくるかがテーマです。
売上増大そのものが目的ではありませんが、過去最大の売上高を達成できるか、株式市場からみた企業価値という意味でも一つの大きな尺度です。まずは、バブル期だった1991年7月期の1725億円という数字を、この6年の間に超えるための基礎をつくりたいと考えています。
──海外事業はいかがですか。 大久保 今は単品売りを細々とやっているレベルですが、徐々に事業を拡大したいですね。とくに注目しているのは、東アジアです。近い将来、この地域にも必ず少子高齢化の時代がきます。これに対応するには、ITを活用して社会の効率化を進めなければなりません。当社の三事業の強みを横断的に発揮できれば、その課題の解決に貢献するソリューションを提案できるはずです。少しずつ、現地のITベンダーなどとの協業も模索し始めています。
先ほど申し上げたコミュニティへの包括的なITシステム提案もそうですが、彼らは日本の商材に非常に関心が高く、日本のモデルも捨てたものではないと思っています。
──国内外ともに、ソリューション提案のためのエコシステムの整備・拡大は大きなテーマとなりそうですね。 大久保 内田洋行はもともと、技術主導の会社ではありません。細分化された事業単位ではあっても、ユーザー側の視点に立ったIT導入を常に意識してきました。ですから、当社はそれぞれの事業分野で、メーカー、販社を問わず、パートナーから「組みやすい」との評価をいただいています。プロダクトメーカーとしての顔もありますが、そこにこだわらず、お客様の役に立つものはどんどんラインアップに加えています。これは、当社のDNAといっていいでしょう。
こうした動きが、事業間を横断してできるようになれば、ユーザーにとってもパートナーにとっても、「内田洋行と組めばこんなことができるんだ」という驚きと感動が生まれるはずです。そのためにも、エコシステムを広げていくのが喫緊の課題。これまでは、事業本部ごとにパートナー施策を考え、実行していましたが、横串を通して、より包括的なアライアンスを組むパートナーを増やしていく方針です。

‘過去最大の売上高を達成できるかは企業価値を測る大きな尺度です。1725億円という数字をこの6年の間に超えたい。’<“KEY PERSON”の愛用品>四つのデバイスを使いこなす 仕事用、プライベート用を含め、四つのデバイスを持ち歩く。役員会議の会議システムはiPadで利用する。これまでは社内外で講演する機会が多かったので、膨大な量の講演資料データを軽快に扱うことができるよう、スペックにこだわった軽量ノートPCを使っている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
過去、文教ITをテーマに、大久保社長には何度か取材を受けていただいた。「稼働IT資産が1兆円を超えると見込んでいて、その4分の1のシェアを狙う」と意気込むこの市場への熱い思いは変わっていないと感じた。だが、それ以上に、経営者として全社の事業を俯瞰してみて、ポテンシャルを存分に発揮し切れていない歯がゆさを痛烈に感じている様子が印象的だった。だからこそ、本当の「情環融合」を目指したいという。ただし、「言うは易く行うは難し」。数十年かけて実現できなかったことが、多少事業環境が変わっただけで、簡単にできるわけではないだろう。具体的な成果が期待できるロードマップをどのように示すのか。新社長としての手腕が問われるところだ。
内田洋行は、Evernoteのフィル・リービンCEOが、100年継続できる企業をつくりあげるために参考にした企業でもある。大久保社長が、この「100年企業」を2021年以降も継続して成長させるためにどんな戦略を打ち出すのか、注視したい。(霞)
プロフィール
大久保 昇
大久保 昇(おおくぼ のぼる)
1954年7月、大阪府藤井寺市生まれの60歳。79年、京都大学工学部卒業。同年、内田洋行に入社。取締役教育システム事業部長、常務取締役マーケティング本部副本部長、取締役常務執行役員教育システム事業部長、教育総合研究所長、取締役専務執行役員マーケティング本部長、取締役専務執行役員公共事業本部長、取締役専務執行役員営業統括本部長などを歴任。今年7月より現職。内田洋行の文教IT市場のトップベンダーとしての地位確立に大きく貢献した。
会社紹介
1910年創業。公共関連事業、オフィス関連事業、情報関連事業を展開する。公共関連では、文教IT市場のトップベンダーとして売り上げを伸ばしている。情報関連では、自社開発のパッケージ「スーパーカクテル」シリーズを展開するなど、ソフトメーカーの顔ももつ。昨年度(2014年7月期)売上高は、連結で1435億9300万円。社員数(連結)は2013年7月20日時点で3007人。