フィルタなしで情報を分析・活用
──山野社長は、米EMCの副社長を兼務しておられます。こうして、本社のボードメンバーを務めながら、日本事業を率いるお仕事の醍醐味について、どう感じておられますか。 山野 今、市場を取り巻く環境の変化が大きいですよね。時代の流れにいち早く追いつくために、本社ではM&A(企業の合併と買収)を活発に行って、足りないものを手に入れています。常に最新の技術を吸収したうえで、日本でその市場を「つくる」ということに、私は一番のやりがいを感じています。実は、国産のある大手コンピュータメーカーは当社の動きをずっと観察して、戦略を練っているのです(笑)。このように、他社にも影響を与えることは、なかなかできない業だと思います。
──山野社長は本社の副社長ですから、おたずねします。最近、御社が2004年に買収したヴイエムウェアの売却を検討しておられるということが米国などで報道されています。それについて、コメントをいただけませんか。 山野 私はルーマー(うわさ)をまったく気にしません。メディアやアナリストはあえて情報をリークし、それによって市場に何らかのインパクトを与えようとしています。うわさには、その内容とはかけ離れた「裏」の意味があるので、私は真に受けません。
──では、ヴイエムウェアの売却検討の報道にもそういう「裏」があるのですか。 山野 私の立場では……。一切、コメントしません。ノーコメントです。
──それでは、EMCジャパンの話に戻します。Pivotalの技術を活用して、データ分析の提案に力を入れておられますね。 山野 今、お客様に提案しているのは「データレイク」というものをつくることです。1か月と期間を設定し、フィルタをかけることなく、システムにあらゆる情報を入れます。システムは、溢れないように水の量を自動的に調整する湖や池のようにデータ量をコントロールしつつ、情報を分析して、フィルタを入れるとなかなかみつからない活用方法を発見しようとしています。海外では、すでにゼネラル・エレクトリック(GE)にこの仕組みを提供しているのですが、日本でもGEと事業内容が似ている某大手メーカーに対して、商談を詰めているところです。
クラウドプロバイダとの協業を広げる
──データ活用に関して、日本市場の可能性をどうみておられますか。 山野 現在は、金融機関など一部のユーザー企業を除き、データの利活用は欧米と比べて遅れているのですが、今後、データの量が増えるにつれ、ビッグデータはものすごく伸びてくるでしょうし、あらゆるモノがインターネットに接続され、情報を通信し合うIoT(Internet of Things)に関しても、通信インフラがきちんと整備されている日本だからこそ、先端の国になることができる、というふうに考えています。
──こうした動きは、これまで主にストレージの構築・販売を手がけてきた御社のパートナーにどのような影響をもたらしますか。 山野 データ活用やシステムのクラウド化によって、パートナーは「モノの販売」から「サービスの販売」へのシフト転換を急ぐ必要があると捉えています。つまり、事業の主軸を、メーカーが提供するハードウェアの構築から、クラウドプロバイダなどが提供するサービスのインテグレーションに移さなければならないということです。当社は現在、インターネットイニシアティブ(IIJ)やNTTコミュニケーションズ(NTT Com)、IDCフロンティアなど、日本のクラウドプロバイダ6社と手を組んで、彼らのサービスに必要なインフラを届けています。今後は、これまでハードウェアの販売が中心だった当社のパートナーが、この6社のサービスを再販するスキームをつくりたいと考えており、パートナーのサービス販売を積極的に支援していきます。
──来年、パートナー向け支援プログラムを一新すると聞いています。 山野 2015年1月に、これまで「Velocity」(速さ、速度)という名称で展開してきたプログラムを「EMC Business Partner Program」と名づけ、その名の通り、販売会社をビジネスパートナーと捉えて、彼らの事業拡大を支えるために、プログラム内容に工夫をこらします。先ほど申し上げたクラウドサービスの再販もそうですが、パートナーの事業改革をできる限りサポートし、販売の活性化につなげたいと考えています。
──来年のビジネス目標を教えてください。 山野 現在、プランニング中です。つい先ほどまで、来年の数字について、ボードメンバーと議論していました。一つ、2015年に取り組むのは、日本のクラウドプロバイダとの協業を拡大することです。クラウドの普及が速い状況にあって、時代の流れをみて対応するのではなく、こちらからいろいろ仕かけて自ら時代の流れをつくりたいと考えています。

‘クラウドの普及が速い状況にあって、時代の流れをみて対応するのではなく、こちらからいろいろ仕かけて自ら時代の流れをつくりたい。’<“KEY PERSON”の愛用品>ボーズ製の高級イヤホン ノイズキャンセリング機能を備え、電車や飛行機の雑音を遮断してくれるので、音楽をフルに楽しむことができる。とくに「圧迫感がない」のがお気に入りという。マイク付きなので、手持ちのiPhoneにつけてヘッドセットとしても活用しているそうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
山野修社長は「ノイズ」を好まない。周辺の雑音を遮断するイヤホンを愛用する(15面に関連記事)だけではなく、EMCの事業方針に関する報道も「ノイズだろうな」として、シャットアウトするようにしているという。 会社が進むべき方向を明確に定め、その達成に向けて集中して動く──。3年以上にわたってEMCジャパンの社長を務めている実績からは、米本社が山野氏の経営者としての手腕を評価し、支援していることを読み取ることができる。
EMCは順調に売り上げを伸ばしている。しかし、現在の成長ぶりに甘える様子はみせない。中国メーカーの進出やクラウドの普及に対応すべく、メーカーとしての変革が求められるからだ。販売パートナーも同じ。ソフトウェアに注力するなどのEMCの動きを受けて、販売パートナーは自社のビジネスモデルへのテコ入れが不可欠となる。2015年、新しい支援プログラムが始動する。山野社長はパートナーとの関係をどう進化させるのか。ノイズを遮断し、関係づくりに集中する姿勢は不変とみられる。(独)
プロフィール
山野 修
山野 修(やまの おさむ)
1959年、東京都生まれ。84年、東京工業大学・大学院(制御工学専攻)を修了した後、主任研究員として米AT&T Bell Laboratoriesに入社。その後、横河ヒューレット・パッカード(現日本ヒューレット・パッカード)を経て、オートデスクや日本RSAなど数社でマーケティングに携わる。2010年7月、EMCジャパンの執行役員副社長に就任。11年1月、現職に就いた。米国本社の副社長を兼務する。
会社紹介
米EMCの日本法人として、1994年に設立。ストレージをはじめとするEMC製品の販売と保守を手がける。従業員数はおよそ1000人。東京・代々木に本社を構える。2014年第3四半期(7~9月)のグローバルの連結売上高は、前年同期比9%増の60億米ドル。日本法人の売上高比率は数%とみられる。