DRの実現を
アドオンで提案可能
――今、バックアップ市場では各社そろってクラウドへの対応に力を入れています。Arcserveのクラウド戦略を教えてください。
オンプレミスで取ったバックアップをクラウド上にも保存しておくことで、オンプレミス側で障害が発生した際、バックアップデータを利用して自動的にクラウド側でシステムが立ち上がる「インスタントVM」機能を用意していますが、これをDR(ディザスタリカバリー、災害復旧)目的で使いたいというニーズが非常に大きくなっています。実は数年前から搭載している機能だったのですが、昔はDRというと、複数の拠点をもつ企業でないと実現できないというイメージがありました。今は多くの企業でクラウドの利用が当たり前になったことで、単一拠点の企業でもオンプレミス-クラウドでのDRが可能になりました。最近では他社製品も似通った機能を搭載していますが、使い勝手と障害発生時の遠隔地での立ち上がりの早さは、パートナー各社からも評価されている部分です。
――DR先としてはAWSやAzureのようなパブリッククラウドを活用するということですか。
もちろん、当社製品は大手クラウドに対応していますが、国内のパートナービジネスという観点では、MSP(マネージドサービス事業者)パートナーの拡大に力を入れてきました。クラウドサービスを運営されているSIerや通信事業者の方々に、当社の技術を使って、お客様のデータを保護するサービスを提供していただくモデルで、すでに国内90社以上のMSPに採用されています。
そしてこれから力を入れるのが、当社のプライベートクラウドを活用したデータ保護サービスの「Arcserveクラウド」です。大手パブリッククラウドで本格的にバックアップを運用しようとすると、ネットワークの費用がかさむうえ、全体のコストを事前に見積もるのが難しいという問題がありました。Arcserveクラウドではネットワーク転送量への課金はなく、1TB単位のストレージ容量のサブスクリプションのみというシンプルな契約形態とすることで、コストを理由にクラウドバックアップを導入できなかったお客様への提案を図っていきます。
――ソフトウェアライセンスやアプライアンスといった物販ビジネスから、いよいよサブスクリプションビジネスへ舵を切るということですか。
いえ、まったくそうではありません。むしろ既存のビジネスと食い合うところがないのが、当社のクラウドサービスの特徴だと考えています。まずは、お客様のオンプレミスに導入済みの当社製品とArcserveクラウドが連携し、データの遠隔保護を実現する「ハイブリッド」の形態で提供を開始しました。これまで当社製品の販売・構築に携わってきたパートナーの皆様が、簡単にDRを実現できるサービスとして既存のお客様に対しアドオンでご提案いただけます。
次の段階として、オンプレミス環境にはバックアップサーバーを置かず、保護対象のPCやサーバーのデータを当社のクラウドへ直接送信する、「ダイレクト」の形態での提供も行います。海外ではすでに実績のあるサービスですが、日本市場では今準備段階です。すでに多くのお問い合わせをいただいていますが、ほとんどはオンプレミスのバックアップをクラウド化したいということではなく、支社や工場など、IT担当者が少ない拠点のバックアップをリモートで取りたいという需要です。ですので、ハイブリッド、ダイレクトの両形態とも、パートナー各社の既存ビジネスに取って代わるものではありません。パートナーの皆様からは非常に良い反応をいただいています。
――ソフトウェア業界ではライセンス販売からサブスクリプションへという大きな流れがありますが、長い歴史をもつ製品の場合、特に日本市場ではその移行がうまくいっていないケースもあるように見受けられます。
私たちのようなメーカー側だけが旗をどれだけ振っても、クラウドサービスの拡販は成功しないと思っています。お客様やパートナー各社がどんな価値を求めているかをよくお聞きし、サービス内容を日本市場に合う形に少しずつカスタマイズしていって、準備が整ったタイミングで強力に推進するというステップを踏まないと、うまくいきません。Arcserveクラウドも海外では1年半ほど前から提供していますが、日本市場向けの準備でこれまで時間をいただいていました。ハイブリッド形態では国内のDC(データセンター)を活用していますし、ダイレクトも当初は米国のDCでスタートしますが、追って国内DCも利用可能にする予定です。
――日本市場での展開だけのために多大なカスタマイズ費用が必要になることを、好ましく思わない米国企業は少なくないと思いますが、そのあたりの投資は惜しまないと。
その投資を引き出すのが、私の使命の一つですね(笑)。幸いパートナー各社からは、米国本社にちゃんと声が届くメーカーだという点は評価いただいています。当社は世界を5リージョン(地域)にわけて事業を管理しています。北米、中南米、欧州、アジア太平洋、そして日本です。単独のリージョンとして扱われているんです。アプライアンスを始めるときも、「すぐに保守部品が届かないと不安だ」という声をいただきましたので、日本市場向けの製品はキッティングからパーツの保管まで、国内のハードウェアベンダーと組んで全て国内で行っています。営業、テクニカルサポート、マーケティングなど全ての社員が、日本のお客様とパートナーを支援していく。この体制はどの競合他社よりも整っていると自負しています。
Favorite Goods
モノに強いこだわりがある性格ではなかったが、社長となって多くのエグゼクティブと交流する中で、「偉くなったら良い時計を持つべき」と指摘される機会があり、腕時計を新調。月ごとに日数を調整しなくても正しい日付を表示し、さらにうるう年にも対応した「パーペチュアルカレンダー」を搭載した時計を選んだ。ブルーの文字盤がお気に入り。
眼光紙背 ~取材を終えて~
結果を出し続けてきた20年
Arcserve製品に携わるようになって、20年目を迎えた。IT業界の外資系企業で、これだけ長期間同じメーカーに在籍し、しかも同じ製品を担当し続けている人物に出会うことはまれだ。他社に移ることを考えたことはないのかと聞くと、「もちろん、オファーをもらう機会はある」と明かすが、まだまだこの会社でやるべきことがあるという。何より、20年も続けてきた仕事で、今もなお業績を伸ばせている。
取材の終わり際、「プロフィールのところにぜひ『毎年結果を出せる男』と書いておいてください」とおどけてみせたが、江黒社長がこの会社の顔であり続けていることは、顧客やパートナーからの信頼という点で大きな意味をもつ。特に海外メーカーでは、経営者や担当者が変わる度に、製品の方向性や販売戦略が180度変わってしまうベンダーは少なくないが、ArcserveはCAテクノロジーズからの独立前後にも混乱を招くことはなく、安心して扱える製品という評価を得ている。
国内顧客向けのサポートやカスタマイズを充実させられるのも、日本市場で長年結果を出し続けてきたからこそ。「特別なことではなく、社員一人一人がやるべきことをやっているだけです」と謙遜する。
プロフィール
江黒研太郎
(えぐろ けんたろう)
1964年生まれ。2000年に日本CAへ入社し、「ARCserve」ブランドのデータ保護事業を担当。その後、同事業を統括するストレージ・ソリューション事業部の事業部長などを務めた。2014年10月、Arcserve Japan設立に伴い同社の社長に就任した。
会社紹介
1983年、米国で設立されたシャイアンソフトウェアがルーツ。創業後ほどなくバックアップソフトが主力製品となり、中堅・中小企業向けに強みをもつ。96年に米CAテクノロジーズによって買収されたが、2014年8月の投資会社への事業譲渡により、再び独立したデータ保護ソリューションベンダーとなった。