富士通で長年営業畑を歩んできた広瀬敏男氏が今年6月、主要子会社である富士通マーケティング(FJM)の社長に就任した。中堅民需市場にフォーカスしながらも、案件規模以外で富士通本体との違いが見えにくかったFJM。昨年10月に発表された富士通のグループガバナンス強化の戦略が揺らぐ中、どのような戦略で独自の色を出していくのか。広瀬社長を直撃した。
DX時代の企業スタイルでは
富士通本体の先を行く
――あらためて、富士通グループの中でのFJMの役割を教えてください。
9年前、当時の富士通ビジネスシステムに富士通の中堅民需事業を統合して立ち上げたのがFJMです。富士通グループ全体として弱まっていた、中堅のお客様に対する提案にもう一度エンジンをかけるために、パートナー各社とともに中堅民需のビジネスを再立ち上げしようと。この領域に注力する会社であることは今も変わりません。
プロジェクトマネジメント能力を高め、プラットフォーム(ハードウェア製品)ビジネスからソリューションビジネスへの変革に取り組んできたことで、数字は着実に上がってきています。しかし、富士通ブランドとしての、あるいは当社ならではの強みを出せてきたかというと、そうではない部分も多いと思います。例えば業務アプリケーションの「GLOVIA iZ」「GLOVIA きらら」は、業種によっては高い認知度がありますが、「富士通の中堅向けイコールGLOVIA」と言えるほどの強さを発揮できているかというと、もう一つ迫力はなかったかもしれません。
ただ、FJMに来てみると、私自身もわかっていなかった、この会社ならではの強みがたくさんあることに気付いたんです。
――富士通本体にないFJMの強みとは。
例えば、富士通本体の場合はどうしても自前主義に陥りがちなところ、FJMはお客様の要求をリーズナブルなコストでスピーディーに満たすため、最適な製品や技術を外からも集めてソリューションに仕立てる目利き力と実装能力がものすごくあります。富士通本体の場合、そのような外部購買の製品を使うときには、どうやって保証するのかといった一つ一つの壁が非常に厚い。もちろん品質を確保するために必要な部分ではあるのですが、中堅のお客様の場合それでは提案が間に合わないし、金額も予算に合わない。そういう市場で9年ビジネスをやってきたので、パートナーとの協業、エコシステムでソリューションを組み上げる能力が高いんです。
――富士通本体の経営方針としても「自前主義からの脱却」は近年よく聞かれるようになりましたが、それを先取りしていたと。
デジタルトランスフォーメーションの話になると、いろいろなパートナーとつながりながら、みんなで作り上げるビジネスモデルに変わっていく必要があります。もちろん、完全にできているわけではないのですが、富士通グループの中では、そういうモデルになっていくための準備を先んじてやってきたのがFJMなんだなと、私も中に入って初めて実感しました。
地方を含め中堅は
FJMが推進エンジンになる
――昨年10月に発表された富士通の経営方針の中では、グループガバナンス強化が一つの大きなテーマとなっていました。業界では一時、FJMは今年にも富士通に統合されるという見方が強まっていましたが、結果的にはFJMは別会社として存続することになったと考えていいのでしょうか。
私としては先ほどお話ししたように、FJMは少なからず独自の強みを持った会社であると考えており、時田(隆仁富士通社長)にもそのようにレポートしています。もちろん、グループの中で機能が重複してムダが発生してしまっていたところもあり、全体として正しい方向に行っているかをよりきちんと検証すべきだったという指摘はあると思います。
ただ、DX会社としての富士通になろう、その中堅民需事業として日本企業を強くしていこうということを考えると、富士通としては他社が撤退しているような地方も含めて、全国に富士通の旗を立てていきたい。全国すみずみまでどうやって富士通が存在感を残すかというところで、時田からは「FJMが推進エンジンになってほしい」と言われています。これまでの議論は踏まえつつ、地方も含めた国内マーケットに最適な営業体制をもう一度ゼロベースで検討しよう、というのが今のフェーズだと私は受け止めています。
――中堅市場にはFJMの現体制が最適であるとしても、富士通と同じビジネスを小さく展開するだけでは独自性は生まれません。今後、FJMならではの部分はどこで出していかれるのでしょうか。
中堅や地域のお客様に対してリーズナブルなシステムをご提供するとなると、クラウドへの移行は今後避けられない流れだと考えています。FJMの大きな方向としては、クラウドのトータルコーディネーターになっていきたいと考えています。といっても既存のお客様がゼロかイチかで全部クラウドへ行くわけではなく、ハイブリッドの時代が続くと思います。そこで昔から基幹業務も手掛けているFJMが、既存のシステムとクラウドをどうつなぐかというコーディネートをやっていく。システム基盤をクラウドベースに変える中で、その基盤の上に、地域のSIerを中心としたパートナーに入ってきていただくという形にしていきたいと考えています。
――国内のほとんどのITベンダーがクラウドを重点戦略にしていますが、うまくシフトできている企業ばかりではありません。
課題はあります。FJMには富士通グループの中でも傑出して優秀なエンジニアがいると考えていますが、インフラのSEが中心で、絶対数が少ない。コストはかかりますが、インフラSEにクラウドの知識をトレーニングし、クラウドネイティブでシステムが作れるようなスキルを社内に育成していきたい。これは下期の中でやれるところまでやってみようと思っています。
――その意味でも、SEが顧客ごとに細かく設計するような案件からは一線を引かなければいけないと。
SEありきのビジネスになると限界があるので、SEに依存しない形にいち早く変えていく必要があります。クラウドカンパニーに変えていくというのも、そういうメッセージです。
[次のページ]デジタルマーケティングで パートナーの営業改革を支援