【米ラスベガス発】米Oracle（オラクル）はクラウド型ERP「NetSuite」の年次イベント「SuiteWorld 2023」を、米ラスベガスで10月16日から19日（現地時間）に開催した。NetSuiteの全体に生成AI機能「NetSuite Text Enhance」を適用するといったアップデートを発表。ERPに蓄積するデータの活用を生成AIにより加速し、経営のスピードを向上させる。NetSuite事業のトップを務めるエバン・ゴールドバーグ・EVP（エグゼクティブバイスプレジデント）は、「われわれは一貫して、顧客がより少ない労力でより多くのことが達成できるように製品を強化する」と強調した。
 

あらゆる機能にAIを組み込む

　NetSuiteは主に中小企業をターゲットにしたクラウド型ERPで、今年25周年を迎える。今回のイベントでは生成AI機能としてNetSuite Text Enhanceが発表された。NetSuite上に蓄積されたユーザー企業の固有データを用いて大規模言語モデルをトレーニングし、ユーザー企業ごとの業務に即したコンテンツの作成を自動化する。Oracle Cloud Infrastructure（OCI）の生成AIサービスを活用し、NVIDIAのGPUを搭載したベアメタル・コンピュートと、コンピューター同士を高速に接続するネットワーク技術であるRDMAを備える「OCI Supercluster」によって、コストを低減しつつ優れたパフォーマンスでAIモデルのトレーニングができる。

　今回の発表では財務・会計や営業・マーケティング、カスタマーサポートといった、すべての業務領域にNetSuite Text Enhanceを適用する考えが示され、各業務に応じて、顧客や従業員へのメールなどのコンテンツを自動で作成可能になるという。

　ゴールドバーグEVPはNetSuiteにおけるAI活用の考え方として、「副操縦士のように後付けされたものとしてではなく、いたるところにAIが組み込まれ、NetSuite上のあらゆる機能で顧客をサポートする。顧客が何をしたいかに応じて、最適な文脈で価値を届ける」と強調。その上で、「将来的には、例えば、グラフを見る時に要約や分析を実行し、顧客が次にとるべき行動や注視しなければいけないことを示すだろう。こうしたテクノロジーが既に存在するので、ユーザーに届けていきたい」と語り、今後も生成AIによる新機能を拡張させていく考えだ。
 

財務管理やAI関連で新機能を発表

　財務管理に関する機能について多数のアップデートを発表した。「NetSuite Enterprise Performance Management（EPM）」では、財務計画と業務計画をつなぎ、勘定照合を自動化する。加えて決算プロセスの効率化や、レポート作成を支援する機能など、財務関連のソリューションを統合した。また、組織のキャッシュフローを改善し、売掛債権回転日数を削減する機能として「NetSuite Capital」を発表。売掛金管理や請求書のチェック、価格設定、発行ができ、決済の迅速化につなげられる。

　AI関連の新機能として「NetSuite Analytics Warehouse」も発表。複数のソースからデータを統合して一元化した上で、トランザクションレベルで顧客のアクティビティを可視化し、インサイトを可視化する。

　財務計画・予測機能の「NetSuite Planning and Budgeting」には、計画や予測と実際との差異を継続的に監視・分析する予測アルゴリズムを搭載した。データ分析を自動化し、トレンドやさまざまな相関関係を示すことで、経営者の意思決定を支援する。

　また、主要な業務や財務の指標を分析し、自社のパフォーマンスを同じ業界や地域の類似組織と比較する「NetSuite Benchmark 360」を発表。ゲイリー・ ヴィーシンガー・SVP（シニアバイスプレジデント）・NetSuite application developmentは「業界や地域に合ったベストプラクティスと比較しながら次にするべきアクションを推奨し、業務の意思決定の迅速化を支援する」とアピールした。また「80の機能でAIが活用されているが、顧客それぞれのニーズに寄り添い実現するというNetSuiteの考えとAIが組み合わさることで、素晴らしい効果を発揮する。AIの活用は加速していく」と述べた。
 
　そのほか、新しいライセンスモデルも発表した。NetSuiteのすべての機能へのアクセスを必要としない従業員向けに、タスクに特化したライセンスを提供する。より柔軟なライセンスモデルで提供することにより、NetSuiteの利用者の拡大を図る。

日本市場では間接販売を強化

　イベントに参加した日本オラクルの渋谷由貴・VP（バイスプレジデント）・NetSuite事業統括日本代表カントリーマネージャーは、日本法人の今後の販売戦略としてパートナーエコシステムの確立に注力する方針を示した。このほど、SB C＆Sとパートナーシップを結び、販売チャネルを拡大させている。渋谷VPは「パートナーに寄り添い、トレーニングなどを通してパートナーのビジネスの立ち上げを支援する専門の部隊を設立した」と説明した。
 
　今後については「日本中の企業にNetSuiteの価値を届けるために、（リセラーを通じて）中小企業にも多くのタッチポイントを持つディストリビューターとの協業を強化する戦略をとる。業界別のテンプレートやベストプラクティスもあり、パートナーは顧客にスピーディーな導入が可能だ」と訴えた。

　渋谷カントリーマネージャーは「ERPは大企業向けだと思われがちだが、事業環境が目まぐるしく変わる中で適切にリソース計画を立てなくてはいけない中小企業にこそ必要だ。同じように（今回のイベントで発表された）生成AIも、少ないコストで多くのことの実現を目指す中小の成長企業に必要とされるだろう」と語った。（大畑直悠）