日立製作所は10月10日、フィジカルAIの取り組みに関する説明会を開き、独自ソリューションの「HMAX」を核に、社会インフラ分野を中心にビジネスを進める方針を示した。既存事業で培ったOT、IT双方の知見とドメインナレッジを武器に、グローバル市場での成長を目指す。
フィジカルAIはセンサーやカメラ、製造機器などから収集した現実世界のデータをAIで処理・分析し、結果を物理環境に還元することで、機器やロボットの制御、人間の作業や判断の効率化・高度化支援を実現する技術。日立によると、2030年度にはグローバルで約20兆円の市場にまで拡大する見通しだ。
日立は祖業の製造業、そこから発展したOT、SIをはじめとするITの3点全ての技術を1社で有する上に、AI分野でも60年以上にわたって研究に取り組んでいる。製造業、OT、ITの各事業で得たドメインナレッジとエージェンティックAI、フィジカルAIを掛け合わせるビジネスモデルを「Lumada3.0」と位置付けており、HMAXはLumada3.0を体現するソリューションだとする。
HMAXは24年11月に鉄道分野向けで提供を開始した。列車内のセンサーで集めた走行データを天候や部品の摩耗状態と組み合わせ、部品交換や保守要員の手配を最適化するソリューションで、現在8カ国で利用されている。
モビリティー以外の分野での展開も進めている。インダストリー分野向けには、ビルや工場における機器駆動データ、保守現場の映像などを基に、作業員の安全確認や設備故障診断サービスを開発し、日立ビルシステム、日立パワーソリューションズで稼働している。今後は金融や公共などの領域にも広げていく考えだ。
25年9月時点でのHMAX受注件数は50件で、日立では潜在案件パイプラインを27年度に1000件、30年度には2万件と想定。ソリューションによっては将来的な間接販売の展開も検討している。
普及においては、AIを動かすための電力や、実装に必要な人的リソースの確保といった課題もあるが、社内のエネルギー関連部隊との連携、子会社である米GlobalLogic(グローバルロジック)を含めた人材への投資も積極的に取り組み、HMAXの拡大に努める。
細矢良智 常務
執行役常務の細矢良智・AI&ソフトウェアサービスビジネスユニットCEOは「お客様やパートナーと一緒になってエコシステムをつくり、社会に貢献することで、世界トップのフィジカルAIの使い手を目指す」と話した。
(藤岡 堯)