仕事で得たスキルや経験を生かして社会に貢献したいと考える「プロボノ」人材が、IT企業で少しずつ広がりを見せている。「公共善のために」を意味するラテン語「Pro Bono Publico」が語源で、現在は支援先の団体のニーズとマッチングさせて被災地復興や非営利団体のサポートなどを担う活動を指す。基本的には社会貢献のために展開するが、副次的に人材のスキルアップや属する企業の本業に生かされる可能性も秘める。取り組む企業に、その狙いや描く将来像を聞いた。
(取材・文/下澤 悠)
協働の拡大、参加企業にメリットも
2023年10月に自社のプロボノ活動を開始したLINEヤフー。24年1月の能登半島地震を受け、以降は関連の支援を実施する。寄付や物資の支援だけでなく現地で特に深刻な「人手不足」の解消につなげようと、意欲のある社員がプロボノとしてプロジェクトを遂行することにした。後に他企業にも参加を募って規模を拡大し、25年4月にプラットフォームとなる「プロボ能登」を立ち上げた。この枠組みで、現在は協力する能登官民連携復興センターから現地の企業・団体のニーズを上げてもらい、個別にプロジェクト化した上で、参加企業社員に募集をかけてマッチングさせている。
通常こうした支援は非営利団体(NPO)向けだが、今回は被災地支援のため地場の企業であれば対象とした。形態はオンラインを基本とし、短期で成果を出すためにもプロジェクト期間は3~4カ月に設定。LINEヤフーでは活動を業務時間外に行うため、参加者は昼休みや終業時にミーティングで進捗を確認し、休日にも作業を進めるなど工夫を重ねる。
プロボ能登では26年3月末までに計38件のプロジェクトが立ち上がり、約100人が活動。各社員の持つスキルを生かし、例えば被災した輪島塗職人を支える情報発信サイトの整備、古材管理のシステムづくりやアンケート集計などを広く支援してきた。
LINEヤフー
田村夏子氏
基本はCSR(社会的責任)の観点から実施しているが、参加企業や社員へのメリットもある。サステナビリティ推進CBU CSRユニットLYプロボノプロジェクト/プロボ能登事務局の佐藤真司氏によると、参加者からは業務とは違う挑戦ができたことで知見やスキルの幅が広がるといった声が寄せられたという。同事務局の田村夏子氏は「日本の広さや首都圏とは違う地域の課題に気づける。プロジェクト進行やWebサイトの整備、アンケート集計など会社員としてはそれほど珍しくない経験が、活動場所が変われば『スキル』になるという発見もある」と話す。
LINEヤフー
佐藤真司氏
また、自社へのロイヤルティーや個人のモチベーション、エンゲージメントを強める効果が期待できる。副次的に、事業での新サービスなどのアイデアやニーズを発見する可能性もある。現在のプロボ能登の参加企業はLINEヤフーのほか、NECやデンソー、サイボウズなど全9社。他企業の社員とチームでプロジェクトを進める際には、自社とは違う仕事の進め方などに関して学びや気づきを得ることがあるという。
社会課題への感度を上げる
LINEヤフーやNTTデータグループなどと協働してNPOのDX支援などを推進してきた伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)の渡邊香織・広報ブランディング本部本部長代行兼ブランドデザイン部部長は、こうした社会貢献活動には企業の本業であるビジネスにつながる「場」を開発する可能性があると指摘する。CTCグループでは、従業員に支援機会の提供を行い、プロボノとして支援に加わった従業員は社会課題を直に体感した上で、自身のスキルの棚卸しやチームビルディングなどを経験する。こうした課題を発見する経験は、業務への新たな視点や発想をグループにもたらすと考えられる。
伊藤忠テクノソリューションズ
渡邊香織 本部長代行
渡邊本部長代行は、「われわれはBtoB企業なので、お客様やユーザー企業の課題をリアルに感じることは難しい面がある。将来的なビジネスを視野に入れながら社会課題への社員の感度を上げておくことは非常に重要だと捉えており、意識や視点を変えておくことでビジネスの場でお客様に先駆けて課題を把握したり、提案したりということがしやすくなるのではないか」とも話す。
プロボノ活動はオンラインでの実施が多いため、参加が容易になりボランティア機会を増やせる利点がある。同社は関与する社員を増やす方針で、「世界を良くするためにも、社会に根づいてもらいたい」と願いを込める。
収集データをビジネスにつなげる
NTTデータグループのサステナビリティ経営推進本部Sustainability Engagement Officeの金田晃一・シニア・スペシャリストは、従来の社会貢献活動に「デジタル」が加わると、企業の社会貢献のあり方が変わると強調する。支援の実践プロセスで得られるデータを活用したり、効果を可視化したりするなどビジネス志向が高まり、温暖化対策やヘルスケア、教育などの領域で社会課題解決型ビジネス創出の可能性が生まれるからだ。
NTTデータグループ
金田晃一 シニア・スペシャリスト
「活動の中でさまざまなデータの収集ができると、入り口は社会貢献でも出口としてはビジネスにつながる可能性がある。経団連の企業行動憲章にもこの旨が記されており、長期目線の企業が社会貢献を進める動機にもなる」として、今後はこうした流れが日本で広まるのではないかと将来像を描く。