視点

コンピュータに魅入られた高校生たち

2007/09/10 16:41

週刊BCN 2007年09月10日vol.1202掲載

 IT業界は3K職場と見なされて、有能な若い人から敬遠されるようになってしまった。大学の情報関連学科は、一流大学に至るまで定員割れの危機に直面している。しかし、全ての若者がコンピュータを敬遠しているわけではない。

 例えば、文部科学省が3年前から開いているICTスクール(http://itschool.nttls.co.jp/index.html)。全国の高校生から約60名を選抜して、世界一級のクリエーターを目指す高校生が、ICT分野の最先端で活躍する研究者たちによる指導・助言のもと、発想力拡大と独創的コンテンツの開発にチャレンジする試みを始めている。今年度から私もこの活動に参加することとなって、貴重な体験をすることができた。

 私のクラスに集まった高校生の多くは専門高校の学生であったが、その能力と意欲には目を見張るものがあった。例えば、私の与えたテキストに従えば作ることができることを理解しながらも、自分独自の方法でやってみたいと挑戦する高校生が現れた。この学生は残念ながら独自のシステムは作れなかったが、多くの高校生は単にプログラミング能力が優れているというだけでなく、時間管理の概念を身につけて、優れた作品を完成したのである。

 6日間の泊り込み合宿講習の最終の1日半で行う制作課題をこなすのにあたって、初めの半日の間に、自分が設定した目標が達成できるかどうか可能性を検討した後、残った1日で作り込みをしていく作業管理を行っている様子に驚かされた。こうしたことは、私の指導する慶應大学の学生でも、なかなかできないことであり、私自身も苦手とするところである。

 こうした計画的行動は、親のしつけを通じて子供のころからの行動様式として形成され、そうした高校生がプログラミングに興味を持つようになったのだと考えることもできるが、ゲーム等でプログラミングに興味を持った生徒が、主体的にプログラムを作る過程で自然に身につけていったものだとも考えられる。

 いずれにせよ、受動的に知識をつめこまなければならない大学受験を目指す高校生とは違った、生き生きとした高校生活をおくっている高校生がいることが分かっただけでも、ICTスクールのクラスを引き受けた甲斐があったと感じている。

 受験戦争が続くなかで、こうした高校生を受け入れて、その才能を伸ばしてくれる大学をどのように広げていくかが、大学自身の課題であると感じた。
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