視点

エンジニアのセンスを育むものとは

2011/09/08 16:41

週刊BCN 2011年09月05日vol.1397掲載

 IT業界で仕事を続けて38年になるが、そのうちほぼ8割の期間を外資系の企業で過ごしている。外資系の企業内にいると、あたりまえという感覚になってしまうのだが、日本の市場に登場する新発想のIT製品は、そのほとんどが米国の製品である。この状況が40年前も現在もほとんど変わっていないのは、やっぱり何かおかしいのでは? と改めて感じる。

 多くの新しいIT製品は、新発想による機能を備えることによって、まずは米国の市場で認知され、その実績を宣伝しながら日本に進出してくる。よくパラダイムシフトという大それた宣伝文句を使うが、これは100に一つくらいで、普通はこれまでの利用技術やビジネスモデルの組み合わせか焼き直しである。とはいっても、続々と発表される新発想の製品は、日本企業からはなかなか出てこない。

 この理由は、米国のIT企業を訪れてみればすぐに理解できる。30年ほど前に、当時勤めていた外資系企業の米国本社へ初めて出張した時のインパクトは強烈に響いている。歴史のあるその電子機器メーカーは、広大な敷地に古い4、5階建ての建物が散在していた。その一つに案内され、ここはスペースマウンテンだと紹介された。中に入ってみろといわれて入室したら、即座になるほどと思った。作業机らしい台の上はどこも電子部品と工具と作りかけの何かが散乱し、周りの測定器のスクリーンや点滅する表示ランプは宇宙空間の星のようであった。実際には新製品企画で実験や試作を行っている部署だったが、自由に働ける空間を与えられ、エンジニアたちの本当に楽しんで仕事をする姿勢が、さまざまなアイデアを生み出す元となっていることが理解できた。

 さらに強く感じたのは、多くのエンジニアのセンスのよさである。製品に対する批評、新製品の構想、机や壁に貼ってあるちょっとしたメモなどに新鮮な驚きを感じた。この驚きは簡単には説明しがたいが、さまざまな角度から物事を捉えることができて、新しい面を発見できるセンス、とでもいうものである。このあたりが日米の発想力の違いだろうなと思った。

 斬新な発想を生み出すための自由な雰囲気の職場環境を提供することは、企業努力で可能である。しかしセンスのよさを育むには、子どもの頃からの適切な生活環境が必要であり、そのあたりを解決するには膨大な時間が必要なのだろうと思う。
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