視点

クラウドに適応する情報産業の構造改革を

2012/06/28 16:41

週刊BCN 2012年06月25日vol.1437掲載

 ソフトウェア開発企業の倒産が止まらない。大手信用調査会社の資料によれば、2001年以降の倒産件数のうち業歴10年以上の企業が半数以上を占めるというから、業歴の長い企業も抗し難い深刻な状況だ。大手ソフト開発企業は案件数の減少や規模の縮小に対応すべく、開発体制や工程の抜本的な見直しを強力に進めており、それが下請けの中小開発企業に及ぼす影響は計り知れない。さらに追い撃ちをかけるのが昨今のクラウドへの潮流である。だが、問題の本質は、これまでに築き上げてきた情報産業の構造自体が、クラウドに象徴される技術基盤や市場環境の急激な変化に適応できずに、機能不全に陥ってしまったことにある。もはや、産業構造そのものを再構築しなければ情報産業の未来はみえない。構造改革を実現するには、まずクラウドというビジネスモデルを受け入れることから始めねばならない。

 クラウドを前向きに考えてみよう。IaaSは物理サーバーを仮想サーバーに置き換え、サーバー調達と運用のコストを著しく下げた。また、PaaSを使えば、高額な投資をしなくても、誰でも最先端の開発環境が必要なときに必要なだけ手に入る。そして、SaaSは単にアプリ機能だけでなく、そのアプリの各部機能を利用できるAPIライブラリを提供してくれる。このように考えれば、クラウドこそが、中小ソフトウェア開発企業にとって少ない投資で新規事業にチャレンジできる望ましい環境といえる。

 現在のクラウド市場の環境をみれば、通信企業やデータセンターは、IaaSやストレージといった基盤系クラウドサービスの価格競争が激しくなり、これらの付加価値を高め、他社との差異化を図るサービスを模索している。また、安定的な収益源として中小企業をユーザーとして取り込みたいと考えている。一方、情報系販社は、商材として中小企業に適したクラウドサービスの品揃えを急いでいる。このような状況にあって、データセンターと中小企業ユーザーとの間の溝を埋めるプレーヤーや、情報系販社に中小企業向けクラウドサービスを提供するプレーヤーがまだ十分育っていない。こうしてみると、中小ソフトウェア開発企業が担うべき役割はクラウドのなかにいくつもある。ここに、新たに築くべき情報産業の構造の一端を垣間見ることができる。事業者各々の収益モデルが“見える”クラウドを基盤とするエコシステムの構築を急がねばならない。

一般社団法人みんなのクラウド 理事 松田利夫

略歴

松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降、ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
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