消費税の引き上げを見越した駆け込み需要などで景気が上向いてきた建設業。しかし、ここ10年ほどをみると、建設事業者数は減少傾向にあってマーケットが縮小している。ITについていえば、他産業に比べてシステム化の遅れが深刻で、生産性が低いことが大きな課題になっている。(構成/木村剛士)
【User】事業者数は10年で12万弱の減少
国内建設事業者の数はどれくらいか。国土交通省が調べた2012年3月末時点での建設業許可業者数は、前年同時期に比べて3%減の48万3639業者。最も多かった2000年3月と比べると、11万7341も減った。減少率は19.5%。この10年余りで5分の1が減った勘定になる(図1)。
景気はどうか。一般財団法人の建設経済研究所が今年10月に発表したレポートによると、主要な建設業38社の売上高の合計金額は、2006年度をピークに減少していたが、2010年度に底を打ち、11年度、12年度と前年度を上回った。今年度も見通しは明るく、政府の大型補正予算と東日本大震災の復興需要、消費増税による駆け込み需要が重なり、2013年度は前年度を大きく上回ると、建設経済研究所は分析している。
建設業者をみるうえで見逃せないポイントがある。それが「労働生産性」の低さだ。日本生産性本部(旧社会経済生産性本部)は、各業種別で「労働生産性」を調査し、公表している。全産業の労働生産性を1とした場合、建設業は過去20年、1990年を除いて、1に達していない。つまり、他産業に比べて仕事にムダがあるなど、生産性が低いというわけだ。日本生産性本部はこの理由について、ITの利用が遅れていることを挙げている。建設業のIT投資は、全産業の平均額に比べて半分以下だという(図2)。
例えば06年の時点でLANやイントラネットを構築済みの企業は81.7%、社内ネットワークがインターネットに接続されている企業は76.0%、Eメールを利用している企業は54.0%にとどまっており、全産業の平均値よりも下回っている。どれも、仕事をこなすうえで必要なITインフラだけに、これらの数値は極めて低いとみることができる。国土交通省や建設業関連の団体は、IT化を促進するために、利用方法などを示したガイドラインなどを整備しているが、いまだ建設業のIT化は他産業よりも遅れている実態がある。
【Vendor&Maker】建設業に特化したERPをラインアップ
製造業や金融業、流通・小売業に比べて、建設業向けITソリューションを得意にしているベンダーは少ないが、基幹系システムでは特色のあるプレーヤーが存在する(図3)。応研やオービックビジネスコンサルタント(OBC)、ピー・シー・エー(PCA)などのパッケージソフトベンダーは、特定の業種向けに専用のパッケージソフトをラインアップしており、この3社は建設業についても商品を投入している。応研は「建設大臣NX」、PCAは「建設業会計」、OBCは「奉行シリーズ」のなかで建設業システムを揃えている。
こうした基幹パッケージソフトベンダーのほかに、建設業に特化したERPパッケージソフトをSIerが開発・販売するケースもある。代表的なのが、内田洋行ITソリューションズや富士通ビー・エス・シー(富士通BSC)、日揮情報システムだ。こうしたITベンダーは、もともと建設業向けSIを得意としており、さまざまなシステムを構築してきた実績がある。そのなかで、パッケージソフトにニーズがあることを認識して商品化した経緯がある。
内田洋行ITソリューションズのERPパッケージソフト「PROCES.S(プロセス)」は、全国展開して、約300社への納入実績がある。一般建築土木工事業、設備工事業、専門工事業に適した機能を備えていて、対象のユーザーも幅広い。建設業向けERPの代表的なパッケージソフトといえる。
ERP以外に建設業向けITソリューションで欠かせないのが、CAD(コンピュータ支援設計)ソフトだ。この分野で高いシェアをもつオートデスクの存在が際立つが、中小の建設業では、CADソフトは高額なだけに、有料のパッケージソフトではなく、フリーウェアを使っているケースが結構多いという。「Jw_cad」はその代表的なソフトだ。
中小規模の建設業で「Jw_cad」を利用してコストを抑えながら設計図のデータ化を図っている会社は、まだ意外に多い。しかし、「Jw_cad」は無料ソフトだけに、セキュリティ機能や複数の企業がデータを共有する機能などが貧弱だ。CADで作成した設計データは、建設業にとって重要な資産だから、豊富な機能をもつ有料ソフトに乗り換える建設会社は少なくないはず。CADソフトメーカーにとっては、無料のユーザーを自社の有料ソフトに乗り換えさせるビジネスは、収益を生み出す可能性があるといっていいだろう。
【Solution】電子商取引と建設現場のIT化にニーズあり
ITの利用が遅れている建設業で、一般的なITインフラが整っていない現状を説明したが、電子商取引(BtoB)も進んでいない(図4)。ここにITベンダーのチャンスがあるだろう。
建設業務は、複数の企業が事業体を構成して進めていくやり方が一般的で、情報の共有と書類のやりとりがひんぱんに発生する。業者間での受発注業務も多く、電子商取引を利用することのメリットは大きいはずだが、実際には紙文書でのやりとりが中心だという。国土交通省は、電子商取引を促進するために、「電子契約を行った場合の施工体制台帳の取り扱いに関するガイドライン」(2005年公表)など、いくつかの指針や手順書を作成・公表している。ITベンダーにとっては、電子商取引を実現するためのネットワーク、ソフトウェア、サポートサービスといった需要が、他産業よりも見込めるというわけだ。
また、建設業にニーズがありそうなのがERPだ。建設業者は「基幹系の情報システムを手組みで開発したり、未整備だったりする企業が多く、他産業よりも10年は遅れている」(建設業向けパッケージソフトベンダー)という。IT投資の削減には、ERPパッケージを活用した基幹システムの刷新が効果的で、ERPは今後も求められそうだ。
加えて、もう一つありそうなのが、建設現場でのIT環境づくりだ。建設業は、本社のIT環境整備とともに、建設現場をIT化する必要がある。現場のIT化は短時間で構築しなければならず、建物が完成すれば迅速に引き上げる必要がある。ユーザーは、すぐに構築してすぐに撤退できるITインフラを求めているわけだ。図5で示したように、パソコンの普及状況でも、内勤者向けには整備が進んでいるが、現場でのパソコンの普及が進んでいないことがわかる。ITベンダーにとっては、モバイルワーク環境をすぐにつくるITソリューションが求められる。無線を活用したネットワーク環境と機密データを漏らさないためのセキュリティ、外出先でも利用しやすいタブレットなどの端末を組み合わせたソリューションには、ニーズがありそうだ。