語る人
佐脇紀代志 氏
経済産業省 情報経済課長
プロフィール 1992年、東京大学法学部を卒業し、同年、当時の通商産業省に入省。2000年4月、政策研究大学院大学博士後期課程に入学し、03年10月に博士(政策研究)。大臣官房政策評価広報課政策企画委員、中小企業庁長官官房制度審議室長、経済財政・科学技術担当大臣秘書官、経済産業大臣秘書官などを歴任し、11年9月から現職。
ユーザーとともに新市場開拓
データ活用型の新ビジネスを生み出す「データ駆動型イノベーション」に、日本経済を伸ばしていく大きなポテンシャルがあることは、これまで再三申し上げてきた通りだ。ITベンダーには、この流れをしっかり掴んで、リスクを恐れずに世の中をかき回してほしいと思っている。
ITベンダーは、「このソリューションを導入すればこんなメリットが得られます」という、ある意味でITを導入した結果を保証しようとするビジネスを展開している。しかしこの言い方は、私には野心のないセールストークにみえる。これからのITベンダーには、ユーザーの懐に入り込んで一緒に新しい産業を創造する、ビジネスプロデューサーとしてのセンスと気概が求められるのではないか。
日本の多くの企業は、ビッグデータなどの価値に気づいていないわけではない。だが、データ活用のイメージが抽象的にしか理解できていないようだ。まだまだ企業経営における飛び道具的なイメージをもっていて、それでどのように新しいビジネスを切り開けばいいのかがわからない状況にある。ここに新しい競争の領域、すなわち新市場があるはずだ。
リスクを恐れず先行投資を
農業をはじめとする第一次産業や医療など、これまでITがあまり使われてこなかった分野でITを利活用しようという動きが出てきているのは喜ばしいことだ。しかし、ITベンダーには、既存の産業を活性化するというレベルにとどまらず、ユーザーを巻き込んで、それを超えた新しいサービスの市場を切り開く意欲をもってほしい。それが日本経済そのものを大きく成長させるだろう。
社会的課題に応えること、社会が求めるサービスを実現することが新しい市場の発掘につながるわけだが、データを流通させることで初めて実現できることも多いはず。例えば、食品の高度なトレーサビリティや、自然災害、交通渋滞、市民の消費行動などを予測するサービスなどは、「データ駆動型イノベーション」で、かなり大きな市場が開拓できるとみている。
もちろん、こうしたビジネスは先例がないだけに将来が読めないし、リスクも小さくはない。しかし、先が読めるビジネスだけやっていては、将来期待できる成長の度合いもたかが知れているというべきだろう。日本のITベンダーにも、世界の先陣を切って、R&DやM&Aといった先行投資をしていく役割が求められている。大きな成長を見据えた攻めのビジネスを期待したい。(談)(本多和幸)