内田亮さんは、大手システムインテグレータ(SIer)のSCSKで、ある国内電機メーカーにCRM(顧客関係管理)ソリューションなどを提案するチームを率いている。現場を担当していた頃はほとんど取引がなかったお客様に飛び込んで足しげく通い、密な関係を築いてきた。先方の組織再編や業績低迷のせいで、まったく受注ができない年もあるなど、山あり谷ありのなかで現在に至っている。最近は「また苦しい」時期。しかし内田さんは、他部署との連携を強化し、あらゆる商材を組み合わせて提案する「クロスセル」によって、新たな商機をつかもうとしている。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/長谷川博一)
内田 亮(うちだ りょう)
1997年、大学を卒業後、CSKに入社。流通業や製造業の法人営業に携わる。入社4年目、人材交流の一環として、日本オラクルで営業に従事。2011年、住商情報システムとCSKとの合併によってSCSKが生まれ、現体制に移行する。国産電機メーカーのラージアカウントを担当。部下は7人。
「みんなのお兄ちゃん」を目指し他部署とのパイプを太くする
たくさんの商材をうまく組み合わせることで付加価値をつくり、お客様のIT予算が潤沢でなくても、心をつかんで受注に結びつけたい、といつも思っている。そのために欠かせないのは、社内でそれぞれの商材を担当する部署にコンタクトを取って、膝を突き合わせていっしょに提案の作戦を練ることだ。私は7人の部下の営業活動に同行し、現場で聞いたお客様の課題や要望をまとめ、「コスト削減」などのキーワードごとに社内の誰が詳しいのかを考え、その人と部下をつなぐコーディネータ役としての行動に力を入れている。
まあ、そうはいっても、他部署との連携は、決して簡単にできることではない。SCSKは、旧住商情報システムと旧CSKとの合併によって3年ほど前に生まれた会社。提案方法や仕事の進め方に関して、“文化の違い”が残っている部署がある。だから、たとえ社内であっても相手の価値観に敏感になり、考えを汲み取ることが大切だ。実は、クロスセルに力を入れ始めた頃、完全にこちらのやり方で共同提案をしようとして他部署と調整したけれど、うまくいかなかったことがある。あとで上司に「そんな偉そうな態度じゃダメだよ」とはっきりと言われて、連携先の部署の価値観や共同提案による利益を尊重することを意識するようになった。
しかし、自分の態度を見直したからといって、共同提案が成功するわけではない。フットワークも重要だ。現在動いている案件で連携しようと考えている部署は、東京・お台場にある。私のチームがいる南青山オフィスからは遠く、アクセスがあまりよくない。こんなときは、情報伝達をメールや電話で済ませがちだが、最も有効なコミュニケーションの取り方はフェース・トゥ・フェースで話すことというのが私の持論。このところ、足しげくお台場に通って、共同提案をどう進めるかについて話を詰めている。
いつでも気軽に相談できるみんなのお兄ちゃん──私が目指しているのは、こうした頼もしい存在だ。長年かけてお客様を開拓し、その過程でお客様のあらゆる部署に関わり、それぞれと信頼関係をつくってきた。この経験を生かして、今は社内を舞台に、これまでお客様に対して取り組んだ“開拓”の活動に力を入れている。
私にとってのリーダーのお手本は、プロ野球・中日ドラゴンズの落合博満ゼネラル・マネージャー(GM)だ。「チームの成長を最優先する。そのために部下に嫌われてもかまわない」というスタンスを見習って、部下の行動をしっかり統括し、クロスセルを成功に導きたい。
私の営業方針を表す漢字は……「魂」
新人の頃、ちょっと怖い先輩にたしなめられた。「お前の営業には本当に魂がこもっているのか」。私はこの先輩の言葉を胸に刻み、常に本気度120%で、ていねいにお客様対応や部下の管理に取り組んでいる。この取材を受ける前日、漢字を「和」にするか「魂」にするかについて迷って、その先輩に相談したら、「そりゃ、『魂』だろ」とずばり言われた。なるほど、先輩は今も私に強い影響力をもっていることを実感した(笑)。