視点

漫画村 刑事の次は民事訴訟

2022/08/31 09:00

週刊BCN 2022年08月29日vol.1936掲載

 漫画など出版コンテンツの海賊版をネット上に無断でアップロードしていた「漫画村」の運営者に対して、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)会員の出版社3社が損害賠償を求めて7日28日に民事訴訟を提起し、同日午後、ACCS主催で記者説明会を開催した。漫画村に関してはACCSが2019年の刑事手続の対応以来、その流れで民事についても支援を行ってきたのである。

 私も登壇し、訴訟の概要とACCSとしての意義について説明した。多くのメディアで取り上げられ、ネットニュースや新聞記事でご覧になった方も多いだろう。

 漫画村に対する刑事事件では、既に運営者ら4人の有罪が確定している。しかし、漫画村は、コミックスや漫画雑誌はもちろん、一般雑誌や写真集などを含め約8200タイトルを掲載し、最盛期には月間1億アクセスに迫ると推定されていた。その被害はいまだ回復されていない。

 損害賠償額は、3社の17作品について約19億2960万円であると原告の出版社が算出した。この請求額はアクセス総数や各漫画の巻数、各巻の販売価格などから算出されたものだが、コンテンツ海外流通促進機構が漫画村全体の損害額を3200億円と推定しており、漫画村全体からすると被害の一部に過ぎない。

 いずれにしても、民事訴訟での損害賠償額の算出は、被害者側が行わなければならない。このことは、30年近く前から進めてきた企業内違法コピーでの賠償請求でも苦労した。違法コピーを使用してきた企業に対して、違法行為による損害額を被害者側が正確に算出することは極めて難しく、私は従前、この制度自体を改めないと、被害者の経済的な救済ができないという問題意識を持ち続けてきた。03年の著作権法改正で損害賠償額の推定規定が加わったが、私はより一層の見直しを行うべきと考えている。

 損害賠償額の算定のあり方を時代に合わせたものに変えていくことは、著作権法だけではなく民法もかかわる問題ではあるが、今こそ議論を始めるべきだ。ACCSは著作権者の権利保護団体であるが、ゲームでは音楽やキャラクターなど他の著作物を使うなど、著作権のユーザー団体としての側面もある。他の著作権者団体とは違い、ACCSはプログラムが統合するデジタル情報を守り、適正に流通させる団体として、バランスのよい意見を出せるものと考えている。

 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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