広島市のハイエレコンは、県内企業を中心に幅広い企業や官公庁のIT活用を支援している。従来からの強みに加えて、現在は自社製品の開発やソリューション提供に注力することで、ITの力で経営層が抱える課題の解決を目指している。上田康博社長にビジネス状況や戦略を聞いた。
(取材・文/岩田晃久)
県内を中心に全国に顧客
――事業の紹介を。
当社は、1982年に日立OA特約店として創業した。現在の事業は、ソフトウェアのコンサルティングから開発、IT基盤の構築や保守、お客様先へのエンジニアの派遣などを手掛けている。従業員数は270人(2024年4月時点)で、広島県に加えて、東京都と大阪府に拠点を構えている。独立系ベンダーのため、さまざまな面で小回りが利く強みがある。
役員に日立グループとNTTグループの出身者がいることから、売上高の3分の1が両グループを中心とした大手の案件が占める。官公庁と大学の案件も同じくらいの規模で、残りが民需となっており、経営は安定している。広島県内以外にも、北海道から九州までの幅広いお客様を支援している。
――顧客のDXへの意識は。
DXを漠然と捉えて何かしたいという声は多くなっているが、変革まで進んでいる企業はまだ少ない状況だと見ている。そういった中でも事例は出てきており、当社のRFIDを用いた備品管理システム「タグ衛門」を利用しているお客様が、管理だけでなく、タグ衛門から得られるデータを分析して、製品の開発に役立てるといった取り組みをしている。こういった動きがDXにつながっていくのではないかと思う。
中小企業の場合、投資に見合うリターンがなければIT投資に踏み切れない傾向は強い。このため、まずは補助金などを利用して業務効率化を図り効果を実感してもらうことが有効だと考えている。お客様に、補助金の情報が届いていないこともあるため、われわれがきちんと説明していくことが重要だ。
官公庁は、ガバメントクラウドへの対応が注目されているが、(ガバメントクラウドは)大手のITベンダーが請け負うことが多いため、当社は、人事や食品衛生法に関わる事業者の管理など、まだシステム化ができていないその他の部分の支援に力を入れている。
セキュリティーリテラシーの向上を支援
――自社製品やソリューション展開に積極的だ。
社員には、お客様の経営層が考えている課題を解決するのが重要だと伝えており、一番大切にしている部分だ。試行錯誤している段階だが、経営層にヒアリングした課題に合わせて、自社製品の提供やソリューション開発を行っている。また自社商材は、新規顧客を開拓する際のドアノックツールの役割を果たしている。自社商材の場合、販売が難しい面もあるため、展示会への出展、Webマーケティングの強化などさまざまな施策を展開中だ。
代表取締役社長 上田康博
――これから需要が高まると見る領域は。
大手企業に限らず、中堅・中小企業もサイバー攻撃の標的となり被害が拡大しているため、セキュリティーのニーズがより高まっていくと考えている。ただ、セキュリティーリテラシーが高くない企業も少なくないため、セキュリティー製品を提案するだけではなく、リテラシーを高めるサポートにも力を入れていかなければならない。
「広島発、世界へ!」
――人材確保の取り組みは。
毎年、採用枠を拡大して社員を増やしてきたが、退職者が出てしまうため、歩留まりが高くない。当社は、日本学生支援機構の奨学金を利用していた新卒社員に対して一部返済を肩代わりする「奨学金返済支援制度」を設けるといった取り組みを実施し、学生の確保や就業後の定着を目指している。
また広島県は、人材流出の対策として県内企業のIT部門やIT企業に8年間勤務すると奨学金を免除する制度を設立するなどの支援を行っている。
広島市の安田女子大学が25年4月に女子大学としては日本で初めて理工学部の開設を予定するなど、大学によっては理工系の学部を増やす動きも出てきているため、そういったところにもこれまで以上に目を向けて採用活動を強化したい。
AIの活用が、人材不足に有効に機能する。当社は、開発を含めさまざまなケースで生成AIの活用を進めている。成果が出るのはこれからだが、とても期待している。
――自身は広島県情報産業協会の会長を務めている。県内のIT動向について教えてほしい。
全体的にITへの関心は高まっていると感じている。例えば、10月に「ひろしまIT総合展2024」を開催したが、2年前の前回に比べて、来場者と出展者がともに増加した。出展者が増えたということは、エンドユーザーのIT需要が高いとみているためだろう。
県内では、VRやXR、メタバース、Web3などを手掛けるスタートアップが誕生するなど、面白い動きが出てきている。メイドインひろしまIoT協議会という団体では、「広島発、世界へ!」というキーワードを掲げており、そういったものが生まれると非常にうれしく思う。
Company Information
1982年6月設立。ソフトウェアの開発、コンピューター・ネットワークの販売、コンサルティングサービス、自社パッケージ製品の開発・販売などを手掛ける。2024年4月現在の従業員数は270人。