〈企業概要〉
米Kongは2009年創業(現法人設立は17年)。APIマネジメントソフトウェアを提供し、ダウンロード実績は3億回以上。Kong製品を利用してAPIを管理するサーバーは全世界で常時270万台以上が稼働している。グローバルの社員数は約550人。日本法人は23年11月に設立。
グローバルで実績のあるソリューションベンダーの国内参入が続いている。日本法人を立ち上げ、国内でビジネスを本格化する外資系ベンダーは、どのような勝ち筋を思い描いているのか。第12回は、APIマネジメントソフトウェアを提供する米Kong(コング)日本法人に戦略を聞く。同社はエンタープライズITの世界では比較的若い企業だが、2020年には時価総額10億ドルを超えるユニコーン企業に急成長した。APIの管理になぜ注目が集まり、どのような点が評価されているのか。
(取材・文/日高 彰)
デジタル化の加速で“野良API”が乱立する
「Kong」は、グローバルで年間180兆コールのAPI呼び出しを処理しているAPIマネジメントソフトウェアで、同社では「API管理の分野では世界で最も使われている製品」だとしている。
有泉大樹 社長
早くから「APIファースト」化が進んだのが金融業で、多くの金融機関は非対面の顧客接点から得る収益の拡大や、テクノロジーを活用した新たな商品開発に取り組んでいる。また、製造業においてもビジネスのデジタル化は進んでいる。24年7月に日本法人の初代代表に就任した有泉大樹社長は「例えば自動車メーカーは業種で言うと製造業だが、自社が持つ資産をいかにデジタル化しマネタイズしていくかの時代に入っている」と話し、国内でも多くの企業が今後、社内の知財を適切なかたちで社外に公開し、さまざまなサービスと連携する中で収益を生むと展望する。
クラウドネイティブな技術を用いた現代のシステムでは、マイクロサービス化された多数のアプリケーションが複雑に連携しながら稼働している。このため、それぞれのアプリケーションが個別に連携のためのAPIを構築していては、早晩APIを管理しきれなくなる。単にシステムの開発・運用の中で管理業務の負荷が増すだけでなく、外部に公開されたAPIがセキュリティー上の問題となったり、APIがボトルネックとなってパフォーマンスの低下やサービスの停止につながったりする恐れもある。
DXの機運の高まりで、多くの企業がデジタル技術を活用したビジネスの立ち上げを急いでいるが、有泉社長は「大企業では部門ごとにサービスを立ち上げた結果、“シャドーAPI”や“野良API”とも言うべきAPIが生まれる事態になっている」と指摘。APIが今後の収益の源泉となる以上、セキュリティー事故や性能問題によるダウンタイムの発生は、企業の業績低下に直結する。コングのAPIマネジメント製品が世界で注目を集めているのは、このような背景があるからだという。
社内システムのモダナイズや生成AIも導入拡大の後押しに
コングのプラットフォームは、クラウドまたはオンプレミスに展開が可能で、複数の異なるAPIを1カ所に集約するゲートウェイとして動作する。認証、セキュリティー、ログ監視、負荷分散といった機能を提供し、統合的にポリシーを適用できる。APIマネジメントをうたう製品は市場に複数存在するが、シンプルで軽量なアーキテクチャーで構築されているため、性能・運用負荷・コストのいずれにおいても、競合製品を上回っていると同社ではアピールしている。
国内では、以前からOSSやクラウドネイティブ技術に明るいパートナーによって先進企業に向けた導入が進んでいたが、23年に海外のクラウド企業の日本市場進出を支援しているジャパン・クラウド・コンサルティング(Japan Cloud)と提携して日本法人を設立し、国内事業を本格的に広げる段階に入った。24年8月にNTTデータ、12月には電通総研、野村総合研究所と相次いでパートナー契約を締結し、大手企業での採用拡大を目指している。
有泉社長は、今後は外部向けの新たなサービス提供のためのシステムだけでなく、社内システムのマイクロサービス化や、API連携による業務プロセスの改革をどう進めていくかも課題となるとの考えを示し、長らくユーザー企業の基幹システムを担ってきたSIer各社が、コングの製品を活用してDX推進の提案を加速してほしいと期待する。「将来的にシステムが増加していくことは見えている。多数のAPIトラフィックが発生する中、認証やセキュリティー、流量の可視化などを行う管理基盤は必ず求められる」(有泉社長)。
同社では新規パートナーのオンボーディングに用いるコンテンツや、認定資格、教材などの日本語化を順次進めており、国内の開発者向けの支援体制を強化している。また、24年には単一のAPIから複数の大規模言語モデルにアクセスする機能などを提供する「Kong AI Gateway」を発表した。AI活用時のガバナンスを担保するためのソリューションとしても提案を広げていく。