視点

「Android XR」とAIの密接な関係

2025/06/04 09:00

週刊BCN 2025年06月02日vol.2061掲載

 今日の私たちの生活に、AIはすでに欠かせない存在となりつつある。しかし、AIがその可能性を解き放つためには、より自然でシームレスな人間とのインタラクションが必要である。そこでかぎとなるのがスマートグラスだ。

 スマートグラスは、AIとの関わり方を根本から変えうる力を持つ。スマートフォンを取り出す手間もなく、道順や目の前の情報の詳細が瞬時に視界に現れる。これは、AIが特別なツールではなく、常にそこに存在し、私たちの行動を自然にサポートする存在へと進化するための重要な一歩である。スマートグラスを日常的に装着することで、私たちは意識することなくAIの恩恵を受け続け、日々の活動をより円滑に進めることができるようになるだろう。AIが私たちの生活に浸透し、「当たり前」となるためには、このような常時接続された状態が不可欠となるのである。

 このスマートグラスを巡る動きを加速させると期待されているのが、年末に登場が予定されている「Android XR」だ。開発者にとっては既存のAndroid開発の知識やツールを活用できるため、スマートグラス向けのアプリケーション開発が飛躍的に容易になる。多種多様なキラーアプリケーションが次々と生まれ、スマートグラスの利用価値は格段に向上すると考えられる。

 ハードウェアの側面では、Android XRが業界標準のプラットフォームとなれば、多くのメーカーがこれを採用したスマートグラスを開発・販売するようになる。競争が活性化し、より幅広い価格帯と機能を持つ製品が登場することで、一般の消費者にも手が届く存在となるだろう。

 前述のようにAndroid XRがAIとの連携を強力に推進することによって、スマートグラスは単なる情報表示デバイスを超え、ユーザーの状況や文脈に応じた高度なAI処理やパーソナライズされた情報の提供が可能となるのだ。これは、私たちがAIから受け取る恩恵を質的に向上させることを意味する。

 AIが私たちの生活に自然に溶け込み、不可欠な存在となるためには、直感的で常時接続されたインターフェースが重要である。AIが私たちの「視界」に統合され、日常の一部となる未来は、今後のテクノロジーの進化と私たちの生活の変化を占う上で、極めて重要な意味を持つことになるだろう。

 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
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