企業の資産であるデータの管理に高いセキュリティー要件を求める声は多く、大量のデータを使うAI活用においてその傾向は高まっている。NECは、AI基盤向けのストレージ製品「iStorage Vシリーズ」の最新モデルでセキュリティー機能を強化し、データ保護を重視する顧客のニーズに応えている。AI活用に向けたデータ基盤の刷新は検討段階の顧客が多い中、独自のファイルシステムと合わせて提案するなどして、今後広がりが期待される高性能なAI基盤を支えていく考えだ。
(取材・文/堀 茜)
iStorage Vシリーズ
データ保全やコストでオンプレにニーズ
NECは、ストレージ製品を「iStorage」ブランドで展開している。2000年の登場以来、四半世紀の歴史を持っており、ファイルサーバー向けの「NSシリーズ」、バックアップ用途の「HSシリーズ」「Tシリーズ」などをそろえる。「Vシリーズ」はプライベートクラウドやAI基盤向けの主力製品だ。
鈴木淳平・プロフェッショナル(左)と久利直子・プロフェッショナル
データストレージ統括部の鈴木淳平・プロフェッショナルは、ストレージに加え、GPU関連の製品も担当し、AI関連の案件も扱っている。顧客の業務へのAI適用による効果創出に向けて、コンサルティングも含めて伴走支援している。現状については「AIの有効性を検証している段階のお客様が多い」と説明し、ストレージを含むITインフラをAI向けに刷新する動きはまだ限定的との見方だ。
一方で、AIをキーワードにデータ基盤を見直そうという顧客も現れており、オールフラッシュ製品など、より高性能なストレージを検討する動きも見られるという。NECは顧客のAIに対する習熟度が上がると、ストレージに求められる役割も変化してくるとみる。AI活用におけるストレージの役割で重視するのは▽AI活用で加速度的に増えるデータを保管する拡張性▽モデルの学習や推論を実施するための高い性能▽安全にAIを活用するためのガバナンーの3点だ。
生成AI向けに限らず、ストレージには、スケーラビリティーや、業務を止めない高信頼性が重視される傾向にある。ITインフラの運用コストを予測し、必ず予算内に抑えたいという声もあり、オンプレミスでストレージを保有する動きにつながっている。
特にNECの顧客が重視する要素の一つがセキュリティーだ。同統括部データストレージ事業推進・戦略グループの久利直子・プロフェッショナルは「機密データを自社で管理したい、ストレージを外部のネットワークから隔離して運用したいというニーズは強い」と話す。
Vシリーズはこういったセキュリティー面での要望に応えられる製品だ。最新の「V310F」をはじめとする上位モデルには、ランサムウェアや悪意のある第三者による不正操作からのデータ保護を強化するため、バックアップデータの更新や削除を防止できる「Secure Snap」を搭載した。25年にリリースした機能で反響は大きく、「ランサムウェア被害が大きなニュースになっていることも背景にあり、かなり引き合いをいただいている」(鈴木プロフェッショナル)。
最適なインフラ構築を支援
AI用途で、Vシリーズと組み合わせて推進している商材が、拡張が可能なNEC独自の分散・並列ファイルシステム「ScaTeFS(スケートエフエス)for AI」だ。NECのスーパーコンピューターで使われていた実績のあるファイルシステムで、NEC製のサーバーにインストールし、Vシリーズを組み合わせた構成を採用することで、毎秒100ギガバイトのデータ転送にも対応できる高い性能を実現できる。
AI関連の相談は増加しており、GPUサーバーを複数台導入し、ストレージも入れるといった案件も出始めている。ただ「それが当たり前に広がっていくにはもう少し時間がかかるのではないか」(久利プロフェッショナル)と見込む。企業が生成AIを導入するにあたって、ROIが把握しづらかったり、データ整備が必要だったりと課題は多い。生成AIに対応したITインフラの構築においても、確立したノウハウがあるわけではなく、各ベンダーが試行錯誤している段階だ。鈴木プロフェッショナルは「どういう製品を組み合わせてAI向けの基盤をつくるかという支援は必要になってくる」と展望する。
販売においては、販売店向けの勉強会を開催し、NECからのフィードバックを伝えたり、販売店ごとに定期的に個別に販売施策のすり合わせをしたりしている。「ただ製品を売ってくださいというだけではなく、売っていただきやすくするためのノウハウや情報を共有している」(鈴木プロフェッショナル)。
NECがAIの基盤となるインフラを提供し、販売店がAI向けのソリューションを載せて提案するといったかたちも想定されるが、現状は検討段階だという。オールフラッシュ構成のハイエンドSANストレージであるV310Fへの引き合いも多く、データ基盤の高性能化のニーズに対応していく構えだ。