中小企業と地方市場は、ITビジネスの潜在需要があるといわれる。その声は不況になればなるほど大きくなる。これまで稼ぎの柱となっていた大規模なユーザー企業のIT投資額が減り、その減少分を補おうと、好況期には目を向けなかった中小企業や地方に存在する企業からITビジネスを獲得しようとベンダーは動く。だから、景気が悪くなればSMB（中堅・中小企業）向け製品が多く登場したり、地方の開拓戦略を練ったりするIT企業が増える。

　NECもその一社だ。NECは2009年10月からSMB向け事業のある強化プランを推進し始めた。NECネクサソリューションズが東名阪地域のSMBを攻め、それ以外の地域に位置するSMBに対しては、NECの支社・支店が担当する役割分担で攻めている。

　しかしながら、NECネクサは東名阪だけではなく、全国のSMBを攻略するための策を講じている。今年度（11年3月期）期首にあたる4月1日に「中堅事業戦略室」という新組織を立ち上げ、そこで東名阪地域の顧客だけでなく、全国のSMBを攻略するためにはどのような方法が適しているかについての戦略を練っている。

　この新組織を立ち上げた背景には、NECネクサの社長である森川年一氏の危機感があった。NECグループとして地方のSMBへのアプローチが手薄になるのではないか、という危惧だ。「NECだけではSMBのニーズに応えられない部分がある。NECネクサがバックアップするような仕組みが必要だと考えた」（森川社長）。SMB向けビジネスのプロ集団に生まれ変わったNECネクサが本体のNECをサポートする、というわけだ。

　中堅事業戦略室には、NECネクサの幹部ほか、NECの役員3人も参加。これは森川社長の要請による措置だ。森川社長は今年度下期からNECの支社・支店に顔を出し、要望や悩みを聞き、解決策を提示して回っている。NECネクサが自社のビジネス領域を越えて手がけているのだ。

　大手コンピュータメーカーは、一般的に自社自身は大手のユーザー企業を担当し、規模の小さいSMBへのアプローチについては子会社に任せる傾向にある。富士通も富士通マーケティングを誕生させ、その道を歩んでいる。顧客の規模に合わせて組織を分けることに、賛否両論はある。だが、顧客の規模でニーズもITに投じられる資金も異なるので、そのやり方（役割分担）は適しているといえるだろう。

　NECは今、地域を限定して役割を分担しているが、その傾向に歪みが生まれているように思えてならない。ライバルの富士通に大きく水をあけられているNECにとって、地方や中小企業の需要の掘り起こしは急務であり、その体制強化は不可欠だ。見直しの時期にあるとみる。（木村剛士）