アクセンチュアが、日本を含む9か国の大企業・公的機関のクラウドに関する動向を追って、利用状況や企業が抱いている懸念事項などについて詳述したレポートをまとめた。例えば、クラウドを検討するにあたって企業が重視している項目は、「ITの初期投資コスト/資本支出を抑える」と「自社保有のITインフラの運用・保守費要を削減する/回避する」を筆頭に、「新規サービス/製品や改良版を迅速に開発する」や「標準化された効率性の高い業務プロセスのプラットフォームを提供する」「業務プロセスを迅速に変革する」「異なった地域で統一されたプロセスを確立する」などであることがわかった。

　今後18か月間にクラウドを利用する目的は、「複数の組織にかかわる業務プロセスのITプラットフォームを提供する」が最も多く、「データバックアップ」や「CRM、ERP、サプライチェーンマネジメントのアプリケーションを運用する」「ソフトウェアの開発とテストを行う」「大きなファイルを保存、格納する」「顧客データやオペレーションデータを分析する」などが挙がり、こちらも多彩であることが明らかになった。

　ここでアクセンチュアのレポートを取り上げたのは、大企業のクラウド動向を紹介するためではない。中小企業に置き換えてクラウドの利用を考える一つの材料になると考えたからだ。現在、大企業に比べて、クラウド（主にSaaS）を利用している中小企業はごくわずか。レポートが挙げているような大企業の求める要件などをみると、中小企業に当てはまるのは一部であることがわかる。

　そもそもIT資産をほとんどもたない小規模企業では、資産の節約や運用コストの低減などという訴求方法はあまり響かないと判断することができる。ノークリサーチの岩上由高シニアアナリストは、「データの安全な置き場所を確保したいというニーズがある」と指摘し、モバイルデバイスの普及がクラウドの需用を喚起するとみている。

　従業員が数十人以上の規模の中小企業では、ある程度は情報システムを導入しているので、一部でクラウド利用が選択肢になり得る。また、直接収益にかかわることを重視する中小企業には、業種・業界特化型アプリが受け入れられやすいとみるベンダーは少なくない。日本ユニシスが事務局を務める製造業支援SaaS普及協会など、すでに一部は動き始めている。このほか、事業を急拡大している新興企業では、迅速かつ安価にシステムを立ち上げるためにクラウドに移行する事例が現れ始めた。

　冒頭に挙げたように、大企業の検討項目や利用目的で中小企業に当てはまるものは限定される。大企業が享受するクラウドの利点と中小企業のそれは異なる、という認識から出発する必要がある。“ピンポイント”で中小企業向けクラウド事業の推進に力を入れるべきだろう。（信澤健太）