大容量のデータをいかに安全・確実に取引先やグループ会社などに届けるか──
これは企業の悩みの種だった。電子メールでは送信容量が限られ、無料のファイル転送サービスは情報漏えいのリスクが高い。そこで、安全に大容量のデータを送るために登場したのが法人向けのファイル転送サービスである。今や、さまざまな事業者がサービスを提供しており、市場は百花繚乱の様相を呈している。(文/鍋島蓉子)
figure 1 「市場動向」を読む
新規参入サービスが増加
情報の電子化が進むなか、企業はITを駆使して、いかにスピーディに情報を共有するかを追求している。メールでMBクラスの大容量な資料や画像を送ろうとすれば、システム的に送信できない制約がかかるケースもある。一方でフリーのファイル転送サービスを使用すると、情報を自分でハンドリングすることができず、漏えいの危険性が高くなるので、利用を制限する企業もある。
そんななか、法人向けの「ファイル転送サービス」の新しいサービスが増えている。イーパーセルでは「プッシュ型」と「プル型」として配送方法を区分している。イーパーセルが提供している「プッシュ型」は送信者、受信者双方にクライアントソフトをインストールし、クラウド上の配送サーバーを中継して、受信者に送り届ける方式だ。一方の「プル型」とは、ウェブブラウザからクラウド上のサーバーにデータをアップロードして、送信先にメールでダウンロードURLを送る。受信者はURLからデータを持ってくる方式だ。事業者の9割は「プル型」とみられる。
ファイル転送のモデル
figure 2 「プレーヤー」を読む
専業から通信事業者、SIerまで、幅広いベンダー
イーパーセルは、受取人まで安全に確実にモノ(情報)を運ぶ「e・パーセル電子宅急便」のサービスを、1996年から米国を皮切りにスタートした。これまでに5400社の企業を獲得している。また2002年には、NTTコミュニケーションズが企業向けオンラインストレージサービスとして「Share Stage ASPサービス」を開始した。近年、ファイル転送サービスの新規サービスも増えており、ソフトバンクテクノロジーは、オンラインストレージ「GIGAPOD」を開発・販売する宮城県のITベンダー、トライポッドワークスと共同開発したファイル転送サービス「ビジネスファイル便 Share IT ! Fits」を昨年6月から展開している。東日本大震災の復興支援として無償で提供し、13社から申し込みがあった。また、シーイーシーソリューションズは、2008年からファイル転送ソフトウェアの「デジ急便」を販売。昨年7月にSaaS版、そして9月にアプライアンス版を開始するなど、幅広いビジネスを展開している。
主な事業者と製品
figure 3 「ターゲット」を読む
機密性高い情報扱う業種ターゲット
ソフトバンクテクノロジーでは、大企業を中心顧客とし、とくに官公庁からの引き合いが多いという。直感的に操作でき、既存のメール環境との連携が容易で、エンドユーザーにかかる負担が少ないのが特徴だ。セキュリティに重点を置き、WAF(ウェブアプリケーションファイアウォール)の導入によってアプリケーションを含めた保護を実現。専門のエンジニアによるぜい弱性診断をセキュリティ機器の設定に生かすPDCAを回して、セキュリティレベルを維持している。
イーパーセルは老舗ベンダーであり、国内外5400社のユーザーを有している。グローバルでのデータ授受の手段として、製造業や金融、大学の研究室などでの採用が進む。シーイーシーソリューションズはパッケージの販売で大企業を中心に50社の実績をもつ。セキュリティ意識の高い会社に向けて、IT統制関連で実績を伸ばした。SaaS版では同様のニーズをもつ幅広い業種の中小企業を狙う。
NTTコミュニケーションズのサービスは、中堅企業を中心として、上場企業からSOHOまでが利用している。1GB契約で1000IDまで作成できるので、たまにしか利用しない社員にもIDを配布することで、急な利用シーンにも対応できる。ファイル共有機能や、ファイル受信機能も標準利用が可能で、契約者の顧客から安全にデータを受け取ることもできる。
主要ターゲット業種
figure 4 「販売施策」を読む
パートナー販売にシフト
イーパーセルは、従来は直販での販売を進めていたが、一昨年から大手SIerを中心としたパートナー販売を開始した。暗号化や認証などの機能を搭載し、専用プロトコルで10GBのデータも確実に飛ばせることから、今後は例えばCADのフォーマット変換を行うソフトウェアへの組み込みなど、データを安全にやり取りする仕組みの「部品化」を進めていく。
シーイーシーソリューションズの「デジ急便SaaS」は、送信者が暗号化しなければデータを送信できないなどのセキュリティ機能を備える。また、オプションで高速にデータを送ることができる専用エンジンが利用できる。今後は、OA販社などとの協業を進める。
ソフトバンクテクノロジーは、今年度末までに中堅以上の企業50社へのサービス提供を目指す一方、中小企業が手軽にサービスを導入することができる低価格サービスの展開を計画している。全国の中小企業、個人事業主にコネクションのあるパートナーを経由して、サービスの拡販を視野に入れる。
NTTコミュニケーションズは、直販中心で販売している。利用シーンが多岐にわたること、大容量ファイルのニーズの高まりを受けて、現状の最大容量10GBを100GBに増量する予定だ。
主な商流