外資系のネットワーク（NW）機器メーカーが、このところ、日本の中堅・中小企業（SMB）に熱い視線を注いでいる。ロードバランサー（負荷分散装置）などを商材とするF5ネットワークスジャパンのアリイ・ヒロシ新社長は、本紙に対して、SMB向けのビジネスを拡大していく旨を明らかにしている。スイッチやルータを主力製品とするシスコシステムズは、昨秋に価格を抑えた製品ラインを投入して、従業員数が100人以下の小規模企業を新規ターゲットとして獲得するのに懸命だ。

　F5やシスコといった、これまで大手企業を対象とするビジネスに集中してきた外資系ネットワーク機器メーカーが、ここにきてSMBに着眼しているのは、リーマン・ショックに学んだことが大きく影響していると考えられる。リーマン・ショックによって生じた景気低迷を機に、会社の数が少ない大手企業に向けた大型案件に依存するビジネスモデルの欠点が明らかになり、安定した事業展開を持続するためには、SMBをターゲット市場に加えなければならないことが明確になってきた。

　外資系メーカーが開拓を急ぐネットワーク機器のSMB市場は、国産メーカーが得意としている領域である。国産メーカーは、リーマン・ショックによって大型案件が急減した外資系メーカーの弱みを突いて、ネットワーク機器市場での地位を高めることができた。例えば、ルータなどを提供するヤマハは、2010年度の国内企業向けルータ市場において、シェアを約48％に拡大した。同社のここ数年の平均シェア値からすれば、およそ10ポイントの増加となる。

　外資系ネットワーク機器メーカーが国内のSMB市場を開拓するのは、容易ではないだろう。ユーザー企業はともかく、SMBに強い各地域の販売代理店には、外資系メーカーがSMBに適した製品を投入しているという認識が薄いからだ。F5やシスコは、SMB市場での存在感を高めるために、トレーニングなどによって販売パートナーを積極的に支援することがカギを握るとにらんでいる。しかし、国産メーカーのなかには、あえてパートナー支援を控え目にする例がみられる。シェアを拡大しているのヤマハがそれだ。

　ヤマハは、ホームページを活用して販社向けの製品情報などを発信している。パートナー支援に資金を投じる代わりに、製品の価格抑えて販社の利益確保を重視する戦略をとっているのだ。ヤマハは、地域で同社製品をSMB向けに売る販売代理店の約半数とは、直接の関わりをもっていないという。今後、外資系メーカーのSMB市場開拓が進めば、当然ながら国産メーカーとの競争が激しくなる。外資系はいかに市場に入り込むか、国産はどのように強い立ち位置を維持するか──。パートナー戦略のあり方がキーポイントとなりそうだ。（ゼンフ ミシャ）