日本IBM(マーティン・イェッター社長)は、地方市場の開拓を加速する。2012年7月に、仙台、名古屋、大阪、福岡に支社を新設してちょうど1年。同社はこれまで、地方での事業展開の土台づくりに取り組んできたが、支社設立の2年目に入って、案件の獲得が急務となる。地方のなかでも期待を寄せているのは、江戸時代に「天下の台所」と呼ばれた大阪を中心とする関西地区だ。製造・流通業の海外進出が盛んな情勢にあって、業務のグローバル対応を支援する日本IBMの商材に注目が集まる。CMO(チーフマーケティングオフィサー)をはじめ、エンドユーザー部門にいかにIT活用の利点を知らしめるか。日本IBMの関西支社を率いる須崎吾一関西支社長は、提案活動を徹底的に行うことを掲げる。(ゼンフ ミシャ)

日本IBMの須崎吾一関西支社長。トヨタ自動車担当を務めた経験をもつなど、製造業の課題に精通する 「お客様とパートナーに受け入れられるようになった」。須崎関西支社長は、関係づくりや認知度向上の活動に取り組んだここ1年の動きを振り返る。
本格的な事業展開はこれからだ。マーティン・イェッター社長は、関西地区の経済力はフランス一国に匹敵するとみており、関西市場に入り込めば、日本IBMの売り上げを格段に拡大することができると踏んでいる。須崎関西支社長は「ユーザー企業のCMOを強く意識し、提案活動を徹底する」という。案件を獲得し、イェッター社長の期待に応えようと懸命だ。
日本IBMは2000年に関西支社を閉鎖して、ユーザー企業を地域別ではなく、産業別に攻める組織に切り替えた。しかしその結果、「地域に密着する事業展開ができなくなり、日本IBMから離れていった関西のお客様が多くなった」(須崎関西支社長)という。
こうした反省を踏まえて、米本社から赴任してきたイェッター社長は、大阪をはじめ、全国4か所にあらためて支社をつくることを決断。「もはや地方の時代ではない」(日本オラクルの遠藤隆雄社長)とみる経営者も多いなかにあって、あえて地方開拓を成長戦略のカギと捉えている。
日本IBMは、関西地区で人事や経理、購買、サプライチェーンなど、ユーザー企業のグローバル展開を支援するバックオフィス系と、ビッグデータ活用など新規事業創出系の二つを主な商材としている。12年10月、関西企業の経営者を集めてIT活用を訴求したプライベートイベントで、イェッター社長が登壇。来場者に関西ビジネスを本格的に拡大する決意を示した。
しかし、現実には「関西での日本IBMのシェアはまだ非常に低い」と須崎関西支社長が嘆くように、厳しい状況に直面している。今後、ユーザー企業向けの提案活動に力を入れるほか、パートナービジネスの強化に動く。関西支社内に、既存パートナーとの協業を担当する部隊に加え、新規パートナーの開拓を手がける部隊を新設しており、システムインテグレータ(SIer)との協業を増やす方針だ。
協業の事例は生まれつつある。今年5月、データセンター事業を展開するオーアイエス コム(大阪市)が、日本IBMの統合型システム「PureFlex System」とストレージや管理ソフトウェアを活用し、クラウドのシステム基盤を構築したことを発表した。8月に新しいサービスとして発売する。
ICT(情報通信技術)を都市や住宅でのエネルギー管理に活用するスマート領域でも、パートナー事業を進めている。現在、12年10月に提携した大阪の住宅メーカー、積水ハウスとともに、エネルギー使用を見える化し、スマートハウスのIT基盤を成すプラットフォームを構築中。これの商材化を急いでいる。さらに、京都市に入り込み、交通網の効率化を図る仕組みの開発を計画している。
須崎関西支社長は、「現状ではまだ事業展開が十分ではないが、これからの関西地区でのビジネス拡大に期待している」と述べる。実績主義の日本IBMだから、ここからの1年は、確実な成果を出さなければならない。具体的な売上目標については明言しないが、「高い成長を実現していきたい」と意気込みを示す。
表層深層
「大阪にはIBMの責任者がおらんので、誰に話を通せばいいのかわからん」。
2012年7月に、12年ぶりに日本IBMの関西支社が設立される前は、販売パートナーが現場で得た引き合い情報が迅速に日本IBMの担当部門に伝わらなかったことから、案件を見逃したケースがいくつかあったという。日本IBMは、支社設立前にも、関西地区でオフィスを運営していた。しかし、地方オフィスと東京本社との連携がうまくいかず、チャンスをものにすることができなかった模様だ。
日本のローカルは、市場規模が東京と比べて小さく、ビジネスが成り立ちにくいイメージが強い。そんなことから、昨年までの日本IBMもそうだったが、多くのITベンダーは市場開拓に本腰を入れていないようだ。一方、“外からの目”で地方をみる日本IBMのマーティン・イェッター社長は、とくに関西地区は十分にポテンシャルがあると分析している。日本IBMの売上減少に歯止めをかけるために、地方ビジネスを伸ばす方針を決めた。
「大阪は天下の台所と呼ばれることもあるように、パワーがあって、企業経営者はイノベーションに高い関心をもっている」と感触を述べる須崎吾一関西支社長。この1年で、事業展開の基盤をつくってきた。NECなど国産メーカー系が高いシェアをもつ関西地区。これから、いかに大阪人の心をつかみ、国産ベンダーとの差異化を図るかが、成功するうえでのポイントになる。(ゼンフ ミシャ)