外資系の大手ITベンダーの営業スタイルとはどのようなものだろうか。個人としての営業成績はもとより、チームの一員としてビッグプロジェクトを成功に導いた小川千春さんが重要視するのは、「お客様の声に耳を傾ける」「チームワークを大切に」という非常に基本的なこと。もともとはITシステムのユーザーの立場にいた小川さんが、紆余曲折を経てたどり着いたIT営業の極意とは──。(構成/本多和幸 写真/長谷川博一)
[語る人]
●profile..........小川 千春(おがわ ちはる)
銀行、商社勤務を経て、1996年、外資系ERPベンダーの営業職に転身。セールス&マーケティング部の部長を務めた後に独立。2007年、日本オラクルにアプリケーション営業として入社。現在は営業業務のかたわら、OWL(Oracle Women's Leadership)の事務局員活動にも従事。OWLは、オラクルが女性のリーダーシップ育成・支援を目的に2006年に設立した社内組織。
●会社概要.......... 米オラクル・コーポレーションの日本法人として1985年に設立された。ソフトからハードまで幅広い製品・ソリューション群をカバー。従業員数は約2500人。東京・北青山に本社を置く。
●所属..........アプリケーション事業統括本部
CRM/HCM事業本部
CRM営業部
担当ディレクター
●営業実績.......... 2009年、セールスプラン比228%の売上実績を上げて、「Sales of the Year」を受賞。2010年、2012年には、ビッグプロジェクトを成功させたチームに贈られる「One Red Team Award」も受賞している。
●仕事.......... 商社、小売り、金融、サービス業を対象に、CRM(顧客関係管理)の営業を担当。直販、パートナー販売の両方を手がけ、案件発掘、導入支援などに注力している。女性のトップ営業パーソンとして、後輩育成も重要なミッションと捉えていて、働きやすい環境づくりやプロジェクト単位のチームワーク向上にも積極的に取り組んでいる。
発される信号を絶対に見逃さない
かつては商社でユーザーとして基幹系システムの導入に携わり、その過程で出会った基幹業務系のソリューションに魅力を感じてITの世界に身を投じた。商社から転職した外資系ERPベンダーでは営業職に就き、最終的にはセールス&マーケティング部の部長を務めた。その後、起業してERPの販社、製品開発会社を経営したが、もう一度グローバル企業でチャレンジしたいと考えたことが、日本オラクルに入社したきっかけだ。
幸いにして、2009年に個人のセールスプラン比228%の成績を残し、「Sales of the Year」を受賞したほか、案件単位のチーム表彰「One Red Team Award」も複数回受賞するなど、成果を上げることができている。上司、同僚、お客様に恵まれたことが大きいが、私個人としても、一貫して大事にしている行動指針がある。それは「お客様から発される信号を絶対に見逃さない」ということ。とくにメールを欠かさずチェックすることは習慣になっている。
現在の1日のルーティンワークは、朝、身支度した後にスマートフォンでメールをチェックし、自分のスケジュールに変更がないか確認することから始まる。出勤してPCを開いて再度メールをチェックし、お客様への訪問を終えた後に、資料の整理をしながらメールを確認。帰宅後も就寝前にもう一度スマートフォンをチェックする。お客様の反応に違和感や引っかかりを感じたら、即行動する。
私は、営業という仕事には「こうあらねばならない」という定型、ハウツーは存在しないと思っている。それぞれに自由なスタイルがあっていい。ただし、そんななかで唯一の指針となるのが「お客様のニーズ」。これをキャッチするために常に高く広くアンテナを張り、情報収集してプロスペクティング(見込み客の創出)することが大切だ。
自分の売りたい気持ちだけが先行してしまうことにも注意しなければならない。日本オラクルでは、期初に上司と相談して各々のセールスプランを立てるが、営業は期限を区切って結果を出すことを求められる。しかし、それはお客様には関係のないこと。過去には、期末までの契約を意識するあまり、お客様に「おたくの都合だけをいわれても困る。当社にとってのメリットを考えたうえでイメージを共有してプロジェクトを進めないと信頼関係を築くことはできないよ」と諭されたことがあり、教訓にしている。
きちんとプロスペクティングしてセールスプランの達成状況をマネジメントできれば、こうした失敗は防ぐことができる。最初はなかなかそれに気づかなかったが、気づきのきっかけを与えてくださったお客様には感謝している。