日本のクラウドベンダーが、ASEANの国々でデータセンター(DC)の建設を着々と進めている。NTTコミュニケーションズ(NTT Com、有馬彰社長)は、2015年の秋、タイで最大となるDCを開設。これをベースに、タイなど、メコン地域に向けてクラウドサービスを提供する。インターネットイニシアティブ(IIJ、勝栄二郎社長)は、国内で培ったコンテナ型DCの技術を生かし、ラオスで初のDCを建設する検討に入った。建設可能と判断すれば、来秋にも開設する見込み。日本のベンダーは、将来の有望なクラウド市場と捉えるASEANでDCを構築することによって、いち早く事業化に向けた基盤を築こうとしている。(ゼンフ ミシャ)
NTT Com
1400ラック相当、来秋に開設

NTT Com
田中恒康
担当課長 アジアを中心に、海外でのクラウド事業の拡大に取り組んでいるNTT Comは、タイで新しいDCの建設に着手した。首都バンコクと人気観光地パタヤの間に位置し、津波など震災のリスクが低いとされる場所で、1400ラックに相当する総延床面積約9600m2のDC専用ビルを建てているところだ。来年の秋をめどに開設を目指す。NTT Comの田中恒康・企画部門担当課長は、「新しいDCは、規模ではタイで1位となり、断トツのコンピューティング・リソースを用意することになる」と自信をみせる。
NTT Comは新DCを基盤に、バンコクの郊外にある既存の「バンナDC」と合わせて、タイのほかに、ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマーの5か国から成るメコン地域に向けたクラウドサービスを提供していく。同社は現在、建設中のものを含めて、シンガポール(3か所)、マレーシア(3か所)、タイ(2か所)、ベトナム(1か所)と、ASEANの4か国で計9か所のDCをもっている。今後は、インドネシアを中心として、展開を「もっと南に」(田中担当課長)広げて、各国で経済成長とともに出来上がりつつあるクラウド市場の開拓にいち早く取り組む構えだ。
国内ではクラウド市場の開拓に出遅れ、アマゾンなど米国の大手ベンダーとの厳しい競争に直面している国産ベンダーは、その経験に学んで、アジアでは米国勢に先駆けて、市場開拓のリーダー役を果たそうとしている。地理的・文化的に近いことや独自の技術力を武器に現地に入り込み、着々とビジネス化に向けた活動を進めている。NTT Comは今年6月、グローバルのIPバックボーンの拠点をバンコクに開設した。これによって、メコン地域の関連事業者に向けて、IPv4/IPv6デュアルスタックの国際インターネットへの接続を提供する。このように、まだ十分に整備されていないメコン地域でのインターネット環境の改善に動き、クラウドサービスを普及させるための土台をつくるわけだ。
IIJ
現地で調査、将来はクラウドも

IIJ
益満尚
担当課長 ラオスの政府幹部に名刺を手渡され、IIJの益満尚・グローバル事業本部グローバル事業開発室担当課長は驚いた。名刺は、厚めの紙に金色の字を印刷して高級感を醸し出しているが、連絡先には「@hotmail.com」というフリーメールのアドレスが記載されている。その幹部に話を聞くと、政府が運用するサーバーを利用したドメインのアドレスももつというが、ICT(情報通信技術)環境が十分に整っておらず、「あまり使いものにならない」ということだった。こうしたエピソードが、ラオスをはじめとするメコン地域のICT環境の現状をリアルに物語る。
IIJは、ラオス政府と組んで、同国初の本格的なDCをつくることを検討している。このほど、経済産業省が日本企業のエコ技術の海外展開を支援するために用意した予算を使い、外気冷却システムを採用することによって温室効果ガスの排出量を削減するコンテナ型DCをラオスで実現することができるかどうかの調査を開始した。コンテナ型DCは、島根県松江市の「松江DCパーク」でノウハウを培ったIIJの得意分野だ。ラオスでの建設に関しては、15年3月までに調査結果をまとめ、「可能」と判断すれば、短期間で完成するというコンテナ型DCの特徴を生かし、来秋にも開設する見込みとなっている。「ラオス政府は、ICT環境を改善するために、迅速にDCを建てることに非常に前向きな姿勢を取っている」(益満担当課長)と語るように、IIJが政府とともに建設に踏み切る確率が高まっているといえそうだ。

IIJ
久保力
部長 DCの規模は未定だが、「最大でコンテナ20台の規模になる」(IIJの久保力・サービスオペレーション本部データセンターサービス部長)として、中規模のセンターとする見方が強い。運用に関しては、「ラオス政府か当社のどちらかが運用を手がけるほか、合弁会社を設立して、協力して運用することも考えられる」(同)という。IIJは、現在、ASEANではシンガポールでDCを運用し、クラウドサービスを提供している。今回のラオス政府との取り組みによって、将来、ラオスでもクラウド展開を可能にするための基盤づくりを図っている。
調査会社の米IDCによると、日本を除いたアジア太平洋地区のパブリッククラウド市場は、2013~18年、28%の年平均成長率をみせる(13年の売上規模は約23億米ドル)。この数字は中国などを含み、ASEANだけの成長を表すものではないが、好景気に沸くASEAN諸国の貢献度が高いと考えられることから、ASEAN市場の可能性を示す一つの指標と捉えることができる。
ポイントは、クラウド展開に関して強い決断をもって、迅速に動いてマーケットを開拓することにある。ASEANで、日本のクラウドベンダーが優位に立つ状況に期待したいものだ。