【米シカゴ発】「われわれはAIファクトリーのオペレーティングモデルとなる」――4月7~9日(米国時間)の3日間にわたって米シカゴで開催された米Nutanix(ニュータニックス)のプライベート年次カンファレンス「Nutanix .NEXT 2026」は、同社がAIプラットフォームへと軸足を移していることを示すラジブ・ラマスワミCEOの宣言で始まった。“VMwareオルタナティブ”のトップランナーとして多くの実績を積み重ねてきたニュータニックスが、インフラベンダーとして次に目指すゴールはどこなのか。現地での取材をもとに、新たな戦略を読み解いていきたい。
(取材・文/五味明子)
HCI、コンテナ基盤に続き「AIインフラ」が第三の柱に
米Broadcom(ブロードコム)の米VMware(ヴィエムウェア)買収による仮想化基盤市場の激変以来、HCI(ハイパーコンバージドインフラ)やKubernetesプラットフォームを中心にヴィエムウェアからのインフラ移行を強力に推進してきたニュータニックスだが、今回のカンファレンスでは、エンタープライズにおけるAIプラットフォームとしての優位性をアピールするアップデートが特に多かった印象だ。
同社は前回の「.NEXT 2025」で、企業向けのプライベートAI基盤「Nutanix Enterprise AI(NAI)」を発表し、生成AIをHCIおよびコンテナ/Kubernetesに次ぐ同社の第三の注力分野に位置づける方針を明らかにした。それから1年が経過した現在、「当社の事業におけるAIの重要性はより高まっている」と、ニュータニックス・ジャパン執行役員Field CTOの荒木裕介・システムエンジニア統括本部長は語る。
ニュータニックス・ジャパン
荒木裕介 執行役員
「1年前はわれわれのコンセプトである“Run Anything, Anywhere(あらゆるワークロードをあらゆる環境で動作させる)”に対し、それをプライベートAI機能(NAI)で補強するというイメージだったが、今回はエージェンティックAIを中心とするAIインフラとしての進化を前面に打ち出している。(AIは)三つの柱の3番手からトップに昇格したといっても過言ではない」(荒木執行役員)。
荒木執行役員のコメントにもあるように、ニュータニックスの“AIシフト”は、今回のカンファレンスで発表されたアップデートにも如実にあらわれている。例えば、Kubernetesプラットフォーム「Nutanix Kubernetes Platform(NKP)」の拡張機能として発表されたベアメタル上のKubernetes実行機能「NKP Metal」は、ベアメタルの性能とKubernetesの運用性を両立させることで、AIワークロードにおけるGPU効率と運用の一貫性という従来のトレードオフを解消する機能だ。
また、新たなパートナーシップ強化として、データベースでは米MongoDB(モンゴデービー)、外部ストレージでは米NetApp(ネットアップ)の製品サポートがそれぞれ発表されたが、これらも「自動シャーディングなどに代表されるアプリデータの柔軟な処理(MongoDB)」「ONTAPのスケーラブルでセキュアなデータ管理機能(NetApp)」というメリットを活用し、MongoDBが担うAIアプリケーションデータレイヤーとNetAppが担うAIデータインフラレイヤーの双方を取り込み、AIデータライフサイクル全体をカバーする構成を志向している点が注目される。
こうしたAIシフトの加速の背景には「推論に対する大幅な需要拡大が強力なドライバーとなっている」と荒木執行役員は言う。特にエンタープライズでは大規模モデルのトレーニングよりもビジネスに直結する推論中心のユースケースへの関心が高くなっており、そのことは必然的にAIインフラへの注目度が高まっていることを意味する。
例えば、社内データを使った生成AIによるコンテンツ作成やAIエージェントによる業務支援、エッジ環境におけるリアルタイム推論といったワークロードの重要性が大きくなればなるほど、パフォーマンスやセキュリティーの観点からそれらを自社インフラで動かしたいというニーズは大きくなる。加えてデータの分散化が進行し、データ主権(ソブリン)への関心が高まるなか、クラウドに依存することなくAIワークロードを回すことができるインフラスタックに注目が集まっており、「インフラベンダーであるニュータニックスがAIプラットフォームとして存在感を示していくことは時流にかなっており、われわれとしてはそうした顧客のニーズを的確に捉えていきたい」と荒木執行役員は話す。
ニュータニックスのAIシフトは、単なる推論ニーズの拡大に対応したというよりも、AIがインフラの課題をあぶり出す存在へと変化したと捉えるべきで、エンタープライズの関心は「AIをどこで動かすか」ではなく「AIをどう運用するか」という問題に移りつつあることを示している。そして、この問題がより広く市場で共有されるようになったとき、分散した環境を一貫して制御できるインフラを持つこと自体が競争力となるーーニュータニックスはそのポジションを取りにきていると見るべきだろう。
サービス事業者やGPUクラウド向け機能を強化
.NEXT 2026ではパートナー関連の発表もいくつか行われたが、そのなかでも特に関心を集めたのが、サービスプロバイダーを対象にした管理プラットフォーム「Nutanix Service Provider Central(SP Central)」(2026年下半期に一般提供予定)のリリースだ。
米ニュータニックス
デイブ・グイン シニアバイスプレジデント
これは、サービスプロバイダーが顧客に提供するマルチテナント型のクラウドサービスをNutanix Cloud Platform(NCP)上で大規模に運用するために設計された専用プラットフォームである。ワールドワイドチャネル担当のデイブ・グイン・シニアバイスプレジデントは「SP Centralを導入することで、サービスプロバイダーはNutanix Centralが提供する単一の管理画面上で、マルチテナンシー、ガバナンス、セルフサービス機能を利用できるようになる。われわれはここ数年間にわたって続いてきたブロードコム/VMwareによる市場の破壊から、顧客だけでなくパートナーも救っていきたい」と語り、既存のニュータニックスパートナーに加え、ブロードコム/VMwareのパートナープログラムの資格を失ったサービスプロバイダーも重要なターゲットに含まれることを訴えた。
自社のリソースを複数の顧客に提供するサービスプロバイダー向けに、
マルチテナント対応管理基盤「SP Central」を提供
SP Centralの提供にも見られるように、ニュータニックスは顧客だけでなく幅広いレンジのパートナー企業の獲得を精力的に進めている。同社は現在、これまでのプラットフォーム中心の販売促進を目的としたパートナープログラム(Elevateプログラム)を大幅に変更することを計画しており、グインシニアバイスプレジデントは「新規顧客獲得だけでなく、プラットフォームの導入促進と契約更新の成功に貢献するパートナーを高く評価する」「コア製品だけでなく、(AI関連ソリューションなど)当社ポートフォリオ全体を販売するパートナーに最高レベルの報酬と投資(オンボーディング特典など)を提供する」と報道関係者に向けて語っている。
つまり、ハイパーバイザー(AHV)だけでなく、生成AI/エージェンティックAIやベアメタル/Kubernetesまでを一貫してシームレスに扱えるプラットフォームとしてニュータニックスが進化しようとしていることを理解し、顧客のイノベーションをともに支援していくパートナーを優遇するということにほかならない。VMwareからの移行拡大は引き続きニュータニックスの重要なテーマではあるが、単に移行する顧客数を増やすだけでなく、パートナープログラムのサポートを手厚くすることで移行支援に深さをもたせていこうとする姿勢がうかがえる。
パートナー関連の発表でもう一つ興味深かったのが、GPUを中心としたAI特化型インフラを提供する次世代型サービスプロバイダーの“ネオクラウド”を対象にした「Nutanix Agentic AI」のアップデートだ。3月の米NVIDIA(エヌビディア)の年次カンファレンス「NVIDIA GTC 2026」で発表されたNutanix Agentic AIは、名前の通りエンタープライズにおけるエージェンティックAIの活用を促進するKubernetesベースのソフトウェアスタックで、エヌビディアのGPUおよび「NVIDIA AI Enterprise」などのリソースと密に統合されている。
ニュータニックスはこのエージェンティックAI基盤を、ハイパースケーラーとは異なる立場でクラウドサービス事業を展開するネオクラウドに提供することで、AIインフラのバックエンドに影響力を示し、新たなエコシステムを拡大していく戦略とみられる。
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ニュータニックスのAIシフト、そして新たなエコシステムの拡大は日本の顧客/パートナーにはどのような影響を与えるのか。荒木執行役員に聞くと「自前のインフラをAIを動かすための基盤と捉えている日本企業はまだ多くはない。だが、グローバルのトレンドは確実に日本にもくる。その必要性が生じたとき、顧客をサポートできるように万全を期しておきたい」という回答が返ってきた。
VMwareからの移行を検討する日本企業にとっても、ニュータニックス製品は最有力候補として名前が挙がることが多いが、荒木執行役員は「VMwareからの単純な移行先としてではなく、その先にある未来を日本の顧客にも見せていきたい」と強調する。「その先にある未来」とは、今回のカンファレンスのテーマにも掲げられていた「One Platform. One Experience. Only Nutanix.」、すなわちニュータニックスだからこそ提供できる、一つのプラットフォームで同一のエクスペリエンスという価値を、日本企業にも実感してもらうことだろう。
カンファレンスに登壇した米国の投資会社であるState Street(ステート・ストリート)の幹部は「われわれにとって“Why Nutanix”は愚問だ。むしろ“Why NOT Nutanix”と問いたい」と、ニュータニックス導入の成功体験を参加者に向かって語りかけていた。AIプラットフォームとして、そしてVMwareオルタナティブを超えた存在として、“Only Nutanix”を日本企業に届ける施策に注目したい。