●問われる変化への適応力 
電通国際
情報サービス
海野慎一執行役員 アジア市場は、目まぐるしく変化している。有力SIerが相次いでASEAN進出に取り組む理由は、広域化するアジアビジネスへの対応なのか、いわゆる「チャイナ+1」の流れなのか、為替や物価、賃金が目まぐるしく変動するアジア市場へ適応なのか、あるいはすべてを包含した動きなのかは、今後、注意深く見極めていく必要がある。一ついえることは、変化を恐れず、臨機応変にすばやく対応していくことが、成長市場ではことさら重要であることは間違いない。
電通国際情報サービス(ISID)は、2009年前後にタイとマレーシアの拠点をいったん閉じている。電機メーカー向けの設計支援システムを展開したが、その後、電機メーカーの製造拠点の比重が中国などへ移ったことが主な要因だ。ところが再び製造拠点としてのタイの存在感が高まったことや、地場の消費市場の拡大を受けた販売支援やCRM(顧客管理)、ビッグデータ分析を活用したマーケティングといったニーズが拡大。同社は今年4月に休眠状態だったタイ拠点を復活するとともに、ASEAN最大の人口を抱えるインドネシア・ジャカルタにも拠点を立ち上げる。ISIDの海野慎一・執行役員グローバル事業推進本部長は「マーケティングに強みをもつ電通グループの強みを明示的に打ち出す」と、従来の製造業向けだけでなく、電通グループとの協業やノウハウの活用によるマーケティング分野でのビジネス強化を念頭に置く。
刻一刻と大きく変わっていくアジア市場では、一度や二度の撤退は織り込んだうえで、戦術の五つのアプローチを巧みに使い分けながらビジネスを拡大していくことが求められている。
【epilogue】
多様性に富むASEAN市場
2015年を目標に緊密化が進む
ASEAN経済をこの目で見るために、記者はマレーシアに足を運んだ。ASEANの経済優等生と評価されるマレーシアは、敬虔なイスラム教国であり、同時にマレー系や華人系、インド系などの国民で構成される多民族国家でもある。民族が複雑に入り交じりながら、猛烈な勢いで経済発展を遂げるASEANの縮図ともいえる街並に圧倒された。
シンガポールから近いこともあってか、残念ながら日系SIerのマレーシア進出は少ない。1人あたりの名目GDPもタイの2倍近くあり、工場立地には向いているといえず、消費市場としても人口2800万は決して多くはないことが理由なのかもしれない。だが、ASEANの優等生といわれるだけあって、生活や文化の水準は極めて高く、今後も発展の余地が大きいと感じた。
発展の方向性の一つとして、マレーシアがイスラム教国であることが挙げられる。例えばイスラム教の戒律を遵守してつくられた商品に与えられる認証「ハラール」制度は、マレーシアではよく普及している。マレーシア・ハラール認証はイスラム教徒からの評価が高いといわれ、この認証にもとづく食品製造のノウハウを取得すれば、マレーシア国内はもちろん、インドネシアをはじめとする他のイスラム文化圏への展開も容易になる。食品メーカー向け品質管理システムにハラール認証の仕組みを採り入れることで、イスラム文化圏への進出可能性も高まってくるだろう。
ASEANは多様な国家や民族、宗教が混在しつつも、経済圏としてより一段の歩み寄りの動きをみせている。JETRO(日本貿易振興機構)によれば、ASEANは2015年までを目標として経済共同体(AEC)の実現を目指しており、単一市場と単一生産基地などを掲げている。実現すれば物品貿易の自由化によって一部の品目を除いて事実上関税が撤廃される予定だという。

マレーシアの首都クアラルンプールを象徴するツインタワー 複雑な地域性をもちながらもASEAN市場が一体となって発展する過程において、日本の情報サービス業にとって少なからぬビジネスチャンスがあるはずだ。