3年前の東日本大震災によって大きな被害を受けた宮城県石巻市に、ICT(情報通信技術)で都市を“賢く”する「スマートシティ」が誕生しつつある。市は、ITベンダーとともに、住宅での電力使用の効率化を図るエネルギー管理システムを構築しようとしている。実現すればかなりの効果が期待できるが、スマートシティの構築には課題も多い。今後、いかに「復興支援」から脱して「ビジネス」につなげるか──。市とITベンダーは答えを模索しているが、事業としての「石巻スマートシティ」の姿はまだみえてこない。とはいえ、ビジネス化に向けた取り組みは少しずつ進められている。震災から丸3年を迎えるこの時期に現地を取材して、石巻市が挑む「ITを駆使した新しい都市」の構築の動きをレポートする。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
【CloseUp】スマート蛇田
土を運んで着々と建設
JR石巻駅からクルマで約15分の場所にある蛇田。かつては田んぼが多く、多くのヘビが棲んでいたことから名づけられた地区だ。50ヘクタールほどのこの地区で、スマートシティ建設に向けた作業が着々と進められている。
ダンプカーが土を運び、住宅地にするために地盤を固めていく。建設用地のそばでは、住宅メーカー各社がぴかぴかのモデルハウスを用意している。屋根や外壁にソーラーパネルを備え、太陽光発電で節電につなげる仕組みを取り入れて、住宅ローンの返済が軽くなることを訴求している。
広々とした建設地の一角に、大型ショッピングモールが浮かび上がる。蛇田地区は、石巻から仙台をつなぐ三陸自動車道が通っていて交通の便がいいだけではなく、近くに商業施設も揃っている。住宅メーカーは、生活しやすい蛇田地区の立地条件に注目して、省エネルギー住宅の売り込みに力を注いでいる。だが、平日のせいか、モデルハウスの見学に来ている人は少ないようだ。石巻にはまだ仮設住宅が多く残っており、住宅の建設は喫緊の課題となっている。「スマート」というよりもまずは「ハウス」を求める石巻の市民に、ICT活用の利点をいかにアピールするか。住宅メーカーだけではなく、スマートシティによって人口の流出を防ぐことを期待している石巻市も、積極的に提案活動に取り組む必要がありそうだ。まずは住宅から着手
進みつつある「復興」
石巻市×東北電力×東芝
太陽光発電や蓄電池を活用
石巻は現在、四つのモデル地区を設けて、太陽光発電や蓄電池を活用した住宅街、すなわちスマートシティの構築に着手している。モデル地区は、(1)市役所がある穀町や商店が並ぶ立町など「石巻中心部」、(2)三陸自動車道・石巻河南インターチェンジ(IC)の西北に広がる「蛇田周辺」、(3)女川町に近い石巻の東部にある「新沼周辺」、(4)南三陸町に隣接する「北上総合支所周辺」の4か所だ。
モデル地区では、石巻市が復興に向けた国の支援金をあてて、エネルギーを供給する東北電力、エネルギー管理のシステム構築を手がける東芝グループの2社と共同でスマートシティを構築しようとしている。東芝グループのSI専門会社である東芝ソリューションが中心となるかたちで、今年からエネルギー管理システムの構築フェーズに入っている模様だ。2016年3月までに、HEMS(家庭内エネルギー管理システム)を装備した700戸程度の住宅を完成させることを目指す。HEMSを活用して、必要なときだけ必要なぶんのエネルギーを提供するシステムの運用・管理を、東芝の力を借りて市役所で統合的に行っていくことを構想している。
さらに、石巻市はこれらの取り組みとは別に、より広い範囲でのスマートシティ構築に向けて動こうとしている。モデル地区に限らず、市全体で「災害時にも灯りと情報が途切れない安全・安心なまちづくり」を掲げて、具体的な施策について、日本IBMなど石巻に従業員を派遣して市を支援しているITベンダーとともに知恵を絞っている段階にある。
[次のページ]