外資系のサーバーメーカーが、ビジネスを拡大する取り組みに力を入れている。ターゲットに据えるのは、大規模なデータセンター(DC)のほかに、利益が比較的確保しやすいとされるミッドマーケットだ。この特集の「下」では、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)、日本オラクル、シスコシステムズ(シスコ)の3社を俎上にのせて、外資系メーカーの事業戦略を分析する。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
「シスコのクラウド」 SIerと協力してAWSに対抗
●パートナーを増やす えっ、シスコがクラウドサービスを始めたの!? 正確にいえば、シスコのものではないが、「あたかも当社のサービスのようにみせる」(ユニファイド・コンピューティング事業の石田浩之営業部長)ことによって、驚きの効果を狙う。
ハードウェアを開発・販売するシスコにとって、AWS(Amazon Web Services)に代表されるクラウドサービスは、「競合ハードメーカーよりも大きな脅威に感じる」(石田営業部長)ほどの恐るべき存在である。そこで、シスコが打ち出した戦略は、AWSとの差異点を明確にすることを喫緊の課題としている国産クラウドベンダーと組んで、「シスコのクラウド」を投入したということだ。
名称は「Cisco Powered」。クラウドベンダーやシステムインテグレータ(SIer)をパートナーとして認定し、サーバー「Cisco UCS」やネットワーク機器を中核とするDC向け統合インフラを、検証済みのかたちで提供する。パートナーは、シスコのインフラを活用して、ホスティングやIaaS、クラウド型テレビ会議などのサービスをつくり、「Cisco Powered」の共通ロゴを使って、ユーザー企業に売り込むという仕組みだ。マーケティングや販売に関して、シスコがパートナーを支援し、メーカーと販社で力を合わせてAWSに立ち向かう。
現在、認定パートナーは、NTTコミュニケーションズや伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)、IIJグローバルソリューションズなど。まだ数社程度だが、シスコは「パートナーを増やしたい」(石田営業部長)として、パートナー網の拡大に取り組み、ハードウェア販売の活性化に結びつける。
●新規参入で市場が動く シスコは、2009年にサーバー「Cisco UCS」を発売した。スイッチやルータなどネットワーク機器だけではなく、コンピューティング(情報処理)も含めて、DC向けインフラを統合的に提供するための商材を揃えてきた。このところ、日本でも「Cisco UCS」の販売を確実に伸ばし、「3年後、国内でブレードサーバーメーカーの上位3社に入る」(石田営業部長)ことを目指している(詳細は13面を参照)。
クラウドを切り口にして、サーバー市場の開拓に意欲を示す「新規参入組」は、シスコだけではない。中国大手のファーウェイ(華為技術)も、サーバーやネットワークを統合し、クラウドのインフラを形成する基盤製品の販売に力を入れている。日本法人のファーウェイ・ジャパンは、日商エレクトロニクスなどのSIerと提携し、日本のユーザー企業に適した製品を開発・投入することによって、サーバー市場に入り込もうとしている。これまで日本と米国のメーカーが独占してきたサーバー市場だが、ファーウェイ・ジャパンは、強い開発力を武器にシェアを獲得し、中国メーカーとしての「仲間入り」を目指す。
そんななかにあって、サーバー事業の戦略が読みにくいのは、中堅・中小企業(SMB)向け販売に強いデルだ。同社は、2013年10月に米国で上場を廃止した後、どこに向かおうとしているのか。
この3月、デルはデータ予測・分析ソフトウェアの開発を手がけるStatSoftの買収を発表した。ソフトウェア商材を強化し、日本を含めて、サーバーやソフトなどを組み合わせたデータ活用ソリューションの提供に踏み切るものとみられる。
シスコやファーウェイのサーバー市場進出や、ビジネスの見直しに取り組んでいるデルの動き。こうした「変化」に、IBMのx86サーバー事業のレノボへの売却やサーバーOS(基本ソフト)「Windows Server 2003」の2015年7月のサポート終了に伴うリプレース特需などのチャンスが加わり、サーバー市場の動きが活発になりつつある。
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