シスコシステムズ
サーバー市場で存在感を強める

中村智
UCSビジネス
日本担当 日本オラクルと同じように、シスコも、サーバーのターゲット市場のすそ野を広げることに取り組んでいる。
「Cisco UCS」はシェアを急速に伸ばしており、現在、世界のブレードサーバー市場で2位にまで到達している(米IDC調べ)。しかし、「Cisco UCS」のユーザー企業の大半は、DC事業者や自社でDCを運営する大手企業という限られたマーケットだ。限定された市場では、シェアのさらなる拡大が難しいので、中堅規模の市場に入り込んで、「Cisco UCS」を訴求することが急務と捉えている。
実際、病床数322床の長野中央病院など、地方の中堅ユーザーが「Cisco UCS」を採用した事例が出てきている。シスコはこれを追い風に、中堅向けビジネスに拍車をかける。今年から2015年半ばにかけて、サーバーをDCに集約せず、自社で使いたいという中堅ユーザーのニーズに適した「Cisco UCS」の新製品を開発・発売する。APJデータセンターバーチャライゼーションUCSビジネスの中村智日本担当は、「サーバーの管理ツールも強化し、データへのアクセスを簡単にするなど、お客様にとって当社サーバーをビジネスの場で活用しやすくして、受注につなげていきたい」としている。
●「HANA」を組み合わせて提案 
石田浩之
営業部長 シスコは現在、ソフトウェア開発会社(ISV)やSIerなど、約30社を日本でチャネルパートナーにもっている。彼らに対して、「Windows Server 2003」のリプレースを提案する際、「Cisco UCS」を勧めてもらうよう、サーバー1台あたり、およそ6万円に相当する支援金を用意し、シスコのスイッチなど、ネットワーク機器とセットの提案ができることを訴えて、販社を動かそうとしている。インメモリ型DB「SAP HANA」を組み合わせた提案も促し、「オンプレミス型で、現実的な範囲でデータの分析・活用ができる」(ユニファイド・コンピューティング事業の石田浩之営業部長)ことを販社と一緒になってユーザー企業にアピールしていく。
「ネットワーク」から「DCインフラ」のメーカーへと変貌を成し遂げつつあるシスコ。「3年後、国内でブレードサーバーメーカーの上位3社に入りたい」(石田営業部長)という。DCに加え、ミッドレンジの市場開拓に本腰を入れて、サーバー市場で確たる存在になることを目指す。
セキュリティを販促ツールに
サイバー攻撃が多様化しているなかにあって、DC向け統合インフラの提案に欠かせないのは、しっかりしたセキュリティ対策だ。シスコは、マルウェア防御などに関してユーザー企業のニーズが旺盛だと分析し、この6月、セキュリティ製品のポートフォリオを拡張した。
例えば、ネットワークとエンドポイント間で起きたセキュリティ侵害の痕跡データを生かし、最新の脅威に対しても防御を可能にする仕組みを投入する。独自のセキュリティ対策を提案の切り口として、サーバーをはじめとするハードウェアの拡販につなげていくことを狙う。
シスコなどのサーバーメーカーは、ハードウェアの提供のみでは他社と差異化することが難しくなっている。セキュリティ対策のような周辺サービスをいかに拡充して、独自性を打ち出すかが、製品戦略を練るうえでの重要なカギを握っている。記者の眼ビジネスチャンスを「つくる」
統合型製品で「ビジネス」の基盤を提供したり、サーバーにデータ分析・活用ツールを組み合わせて提案したり。外資系メーカーのこうした取り組みから読み取ることができるのは、販売先としてユーザー企業の事業部門を強く意識している戦略を打っていることだ。
調査会社のIDC Japanは、このほど、「情報システム部門非関与予算」の状況について調査を行った。つまり、バックヤードの情シスではなく、営業やマーケティングといったフロント系の事業部門が、IT活用に使う予算をもっているかどうか、というものだ。調査の結果、対象企業全体の19.8%が「もつ」ことが明らかになり、とくに従業員数1000人以上の企業では38.8%にも上った。
「情報システム部門非関与予算」が増加する理由としては、「現場の要件をより迅速にシステムに反映するため」が1位で、「新たな技術やIT製品/サービスに対する情報システム部門のスキル不足」が2位となっている。IDC Japanは、「情報システム部門が対応し切れていない部分に対して、事業部門が自ら予算を割き、積極的に関与しようとしている」と分析する。つまり、ITベンダーにとっては、新たな商機が潜んでいるということだ。
サーバー市場は、直近では、IBMのx86サーバー事業のレノボへの売却や「Windows Server 2003」のサポート終了によって、リプレース需要が活性化している。しかし、来年以降の反動減への対策を講じるためにも、サーバーのメーカーと販社は、事業部門向けの提案活動に注力し、単にビジネスチャンスを「つかむ」というよりも、それを自ら「つくる」必要がありそうだ。