ネットビジネス向けのシステム開発と「Biz/Browser」の開発・販売で知られるオープンストリームの経営ビジョンは「業界の中心に存在する技術創発企業をめざす」こと。それを実現するための組織として「技術創発推進室」が2019年4月に発足し、少しずつその成果が出始めている。その一つが、トッパンフォームズとのオープンイノベーションで開発中の帳票デジタル化AI技術「DeepForms(ディープフォームズ)」である。また、産学連携として電気通信大学との共同研究を実施しており、論文発表などを行っている。

技術創発企業への脱皮を目指して電気通信大学・庄野研究室と協働

 「GAFAなどの巨大企業が世界規模のサービスを提供している今、そこに単純に飲み込まれてしまうだけでは面白くない。めげずに自分たちの独自アイデアを盛り込んだアウトプットを目指していくべきだと考えている。そのテーマの一つが、サイバーフィジカルのようなネット空間と物理空間をつなぐ領域ではないか。ネットや計算機上で完結するシステム構築だけでは、徐々に差別化が難しくなってきていることもあり、ソフトウェア企業が開拓すべき有望なフロンティアの一つだ」。オープンストリームで技術創発推進室長/CTOを務める寺田英雄氏は、このように言い切る。
 
技術創発推進室長/CTOを務める寺田英雄氏

 同社のビジネスの核は、ネットビジネス企業向けのソフトウェア開発・システム構築と、ビジネスUIプラットフォームであるBiz/Browerの開発・販売。しかし、経営ビジョンとして掲げる「業界の中心に存在する技術創発企業」を達成するには、数年先を見据えて新たな技術や製品を開拓していく必要があった。

 そこで、2014年にCTOに就任した寺田氏は、まず一人で研究開発に着手。「当社の現在のビジネスが永久に続くわけではないという認識のもと、次の時代のための『商品』を増やすことを狙って、技術創発のための試行錯誤を繰り返した。失敗も多かった」と振り返る。

 このような取り組みの一つとして2016年8月に立ち上げたのが、電気通信大学の庄野逸教授の研究室との共同研究だ。庄野教授は人工知能(AI)の主領域であるニューラルネットワーク(NN)を1990年代から研究しているエキスパート。サイバーフィジカルに欠かせない物理センシング技術の柱として、AIや機械学習技術の導入が必須であり、その指導を仰ぐことが近道だと寺田氏は考えたのである。

 この共同研究では、例えば、AI処理の一部をIoTのエッジ側で行うという実証実験が進められた。狙いは、書き換え型の論理LSIであるFPGAの中に深層学習(Deep Learning)のランタイム処理(「推論」と呼ばれる)を組み込むことによって、AI機能の小型化・低コスト化を検証することである。また、そのためには、フル・スクラッチで深層学習の処理ロジックをプログラミングし直すことが必要であり、結果的に細部にわたって深層学習の仕組みを学ぶことにもつながった。

 この実証実験に基づく論文「B-DCGAN: Evaluation of Binarized DCGAN for FPGA」は、2019年12月にニューラル情報処理の国際会議「International Conference on Neural Information Processing 2019」(ICONIP2019)で採択され、寺田氏が論文の内容を口頭プレゼンテーションした。

 さらに、オープンストリームは技術創発の推進を拡大するため、技術創発推進室を2019年4月に立ち上げ、AIやサイバーフィジカル技術を応用した製品や事業の開発にも乗り出している。同室のメンバーは、全て同社のシステム開発部門から集められたエンジニア。その一人である髙岡陽太氏は、「それまでのシステム開発でAIに触れたことがなかったので、最初は数学とAIの理論を学ぶところから始めた。焦らず基礎から学んだことが後に役立った」と語る。
 
技術創発推進室のメンバーである髙岡陽太氏

帳票デジタル化技術をトッパンフォームズと共同開発

 技術創発推進室で開発している最初の製品は、帳票をAIによる画像解析でデジタル化する「DeepForms(ディープフォームズ)」だ。オープンイノベーション方式でトッパンフォームズとの合同チームでAI技術の開発に取り組んでおり、特許を出願するなどの成果を上げている。

 DeepFormsは、スキャナーやカメラで取り込んだ帳票の画像をAIで処理することによって帳票レイアウトとデータ項目を自動的に認識し、他のソフトウェアが利用できるJSON形式で出力するという仕組みになっている。認識結果を利用するソフトウェアは、それを基にデータ入力画面を生成したり、PDF帳票・ウェブページ(HTMLファイル)・OCR帳票定義ファイルなどを作成したりすればいいわけだ。
 
DeepFormsの仕組み

 肝となる自動認識の部分に使われているのは、電気通信大学・庄野研究室との共同研究を通じて培ってきたオープンストリームのAIの知見をベースに、トッパンフォームズと一緒に作り上げたAI技術である。「初期PoC段階ではなかなか上手くいかず、開発を諦めかけた事もあったが、関係者の理解もあり、方針転換しながらなんとか継続することができた。結果的には約1年後に80%を超える認識率を実現できた」と寺田氏は語る。さらに、この AI をユーザが利用できるシステムづくりまで一気通貫に手掛ける。「ユーザーインターフェースや、基本的なロジック周りについては、当社が豊富な実績をもつシステム開発の技術やトッパンフォームズの業務知識が生かされている」と髙岡氏。

 すでに、オープンストリームの技術創発推進室では、DeepFormsに続く製品の企画もスタートさせている。AIによる画像生成や、3次元画像を活用する製品などだ。「まだ詳細はお話しできないが、AIにも向き・不向きなタスクがあり、そこを見極めながら現実的に役に立つ形にまとめ上げることを大切にしている」と寺田氏は説明する。

 同社のオープンイノベーションの強みについて寺田氏は語る。「オープンイノベーションとは最初は題設定があいまいだったり、正解も見えなかったりする問題を、複数の企業や組織が協力して解いていく取り組みである。自ら問題を設定し正解を決めていく作業は意外に難しく、慣れや胆力が必要だ。我々はこうした場面でのファシリテーションや、メンバーの育成、モチベーションを絶やさない方法など、経験にもとづくノウハウを蓄積しており、そこに自信を持っている」