中国の首都・北京を活動拠点とする北京アウトソーシングサービス企業協会(BASS)は、日中情報サービス業における補完関係の再構築が必要と考えている。両国の情報サービス業の市場環境が大きく変わるなかで、これまでのオフショア開発を中心とした補完関係だけでは十分でなくなったというのがその理由だ。中国情報サービス業界屈指の“知日派”である曲玲年理事長に話を聞いた。
協業の余地は依然大きい
――中国の情報サービス業界からみて、今の日本の情報サービス業界の状況は、必ずしも理想的な姿ではないと捉えておられるようですが……。
曲 その話題に触れる前に、私ども北京アウトソーシングサービス企業協会(BASS)の状況から説明させていただきます。BASSは、北京に事業所を置く数多くのSIerのなかでも、日本など海外からのオフショアソフト開発のアウトソーシングサービスを手がける企業約150社が集まっている団体です。中国の海外向けアウトソーシングサービスの約60%は日本向けですので、日本との関わりは、必然的に他国に比べて深くて緊密なものになっています。とはいえ、日本ではソフト開発のボリュームそのものが伸び悩んでいますので、かつてのような勢いは期待できない。これが一義的な課題です。
――一義的な課題ということは、問題はそれだけではない、と。
曲 私たちは、日本をはじめとする海外からのアウトソーシングサービスを手がけている企業ですので、当然ながらオフショア開発案件の受注は増やしたい。この点は間違いないのですが、会員企業のなかには、日本からのオフショア案件が伸び悩んだ分を欧米からの受注でカバーしたり、あるいはオフショア開発は手がけつつも、日系有力SIerと組んで、中国市場向けのITソリューションビジネスを展開する会員企業も現れ始めています。
日本からの受注増が見込めないから、じゃあ欧米の案件を増やしましょうとか、中国国内市場を狙いましょうとか、そういう簡単なことではないように思うんですね。過去20年以上にわたって、中国と日本の情報サービス産業は信頼関係を築いてきました。日本語のできるSEも数多く育成しており、こうしたことが日本のオフショアソフト開発全体の約8割を中国で占めている実態の背景にあるのです。事業環境は常に変わるものですので、これから20年先を見据えた中日情報サービス産業の関係を再構築する必要に迫られているのが、まさに今だと私は考えています。
――具体的にはどういうことでしょうか。
曲 ひと言でいえば、“相互補完”の関係を再構築するということです。大きな変動要因は、日本市場の成熟と中国市場の成長の二つ。2010年の中国ソフトウェアと情報サービス業の売り上げは、前年比34.0%増の1兆3364億元(約16兆368億円)に到達しており、2011年も前年同様の高い伸び率になる見込みです。この市場規模は、すでに日本を追い抜き、このまま伸びれば数年先にはEUに迫る勢いです。
今、有力日系SIerやITベンダーの多くが、中国市場でのビジネス拡大を進めており、ここにアウトソーシングサービスで培ってきた中日両国のベンダーの協業の余地があるとみています。
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