「LanScope Cat」というヒット製品を生み出し、国内を代表するソフトメーカーとなったエムオーテックス(MOTEX)。設立から21年目に実施したトップ交代人事で創業社長がバトンを渡したのは、高橋慎介氏だった。外資系の大手IT企業の日本法人で数々の要職を歴任した高橋氏は、豊富なキャリアを生かし、どう自分の色を出していこうとしているのか。
「LanScope」は経営資源の最適化ツール
――日本IBM、日本マイクロソフトという外資系IT企業から日本のソフトメーカーへの転身されました。勝手が違って、戸惑うことがあったのでは?
高橋 もうすぐ1年が経ちます。東京と(MOTEXの本社がある)大阪との移動にも慣れて、新幹線に乗車している間の時間の使い方も、だいぶ上手になってきました。30~40分の睡眠と文庫本を一冊、そして仕事。これが、最近の移動時間の過ごし方ですかね(笑)。
籍を移して感じたことは、たくさんありました。最大の強みは何といっても会社の若さ。従業員の平均年齢は28歳で、働きぶりも遊びぶりもパワーが違う。とにかく力がみなぎっていて熱気に溢れている。私が日本IBMに入ったとき、社員の平均年齢は27歳だったのですが、その雰囲気とすごく似ています。日本マイクロソフトにいたときも、MOTEXとは協業していましたので、一部のスタッフからその力強さを感じていました。なかに入って、改めて組織全体がパワフルだな、と肌で感じ、心強く思いました。それと、大手外資系からコンパクトな組織に籍を移したわけですが、小さな企業は何でもかんでも目を配らなければならず、社長の負担はけっこう大きいなぁ、とも感じています(笑)。
――創業社長が約20年間、会社を引っ張り、主力製品のネットワークセキュリティツール「LanScope Cat」は、長い間、トップシェアを保っています。そのなかで、新社長である高橋さんのカラーをどう出していくお考えですか。
高橋 迷いながら進めているというのが正直なところです。よい部分は継承しますが、これまでと同じでは私が入った意味がありません。私の経験・ノウハウをこれまでのMOTEXにどう融合させるか。今の段階で確信しているのは、MOTEXの製品は非常にポテンシャルが高い、ということです。
――「ポテンシャルが高い」というと?
高橋 入社前、私はMOTEXの製品を「ネットワークセキュリティ」とか「IT資産管理」のツールとしてしかみていなかったのですね。でも、この会社に入って、製品の中身を研究して気づいたことは、もっと活用範囲が広いということです。セキュリティ対策とIT資産の管理には確かに貢献しますが、私は「経営資源最適化ツール」だと思いました。
従業員が操作するパソコンやプリンタなどのIT・OA機器、ネットワークトラフィックの利用状況をログとして収集し、分析するのが、MOTEX製品の強み。そのログというのは、イコール社員の動き、会社の動きなんですよ。従業員がどう働いているか、購入したIT・OA機器は適切に使われているかどうかなどがわかります。つまり、われわれのツールが、ユーザー企業の生産性を高めたり、業務を効率化するための素材(情報)をたくさん集める役割を果たすということなんです。
ただ、私も入社以前はそうだったように、ユーザーの大半はセキュリティ・資産管理ツールとしかみていない。ツールがもつ本来の価値の50%しか評価されていない印象です。この点を打開したい。われわれのツールがもつ機能を有効活用していただければ、既存ユーザーの満足度が上がり、もっとたくさんの人に利用してもらえるようになると考えています。50%しか理解されていないのにトップシェア……。そう考えれば、ポテンシャルはもっとあるわけです。
ユーザーが購入した動機も、今はセキュリティ対策や資産管理を目的に導入するケースが多いですね。ただ、今後は経営資源を最適化できるツールとして、もっとアピールしていきたい。情報システム管理者だけでなく、事業部門のマネージャーや経営幹部層も、利用価値があるツールであることを知ってほしいと思います。
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