NTTグループの強みを前面に押し出す
──金融向けはこれからとのことですが、大半を占める一般法人向けビジネスは順調に成長しているのですか。 松崎 一般法人向けは、最初は日本のお客様をメインに開拓していましたが、現在では、中国に進出している欧米企業にも広げていて、すでに一般法人のお客様の半数を超えています。現在も前年度比で3倍に増えていますね。
NDCは、昨年の後半から欧米向けの人材を一気に増やしていて、今では一般法人向けビジネスの人員が150人規模に拡大しました。
──好調のようですが、欧米系の顧客が増えているのは、欧米のNTTデータグループ企業からのロール案件(割り当て)があるからですか。 松崎 それは違います。完全にこちら(中国)で獲得した顧客です。
欧米系は、ドイツの自動車メーカーが皮切りです。自動車の領域は、部品メーカーなどを含めるとすそ野が広くて、ビジネスの量が豊富ですし、お客様自体の業績が伸びているので、IT投資には非常に積極的です。自動車の領域では、中国でうまくいったことがきっかけで、欧米にあるグループ企業が仕事を獲得したりもしています。
そして最近では、大手のスポーツ衣料品会社や、ファーストフードチェーンにも手を広げています。こうした企業では、基幹系システムの構築も手がけていますが、今は顧客管理や販売データ分析、Eコマースなど、顧客側のシステム案件がとくに増えていますね。
──そうすると、欧米系はグローバルベンダーとの競争になりますね。簡単に案件を勝ち取ることができるものなのでしょうか。 松崎 確かに厳しいですね。欧米系の案件で競合するのは、IBMやアクセンチュア、キャップジェミニ、HP(ヒューレット・パッカード)、それからインドのコグニザントやインフォシスなどで、完全にグローバルベンダーとの戦いです。正直に申し上げて、そのなかでNTTデータは、勝ったり負けたりというのが現状です。とくに、SAPのERPなどのグローバル案件は、アクセンチュアが圧倒的に強く、簡単にはいきません。
──では、どこでグローバルベンダーとの差異化を図っているのですか。 松崎 やはり、NTTグループであることですね。これを前面に押し出して提案することが多いです。最近は、NTTコミュニケーションズ(NTT Com)と一緒になって提案するケースが増えています。中国では、ライセンスの問題で日系企業が回線事業を手がけることはできませんが、NTT Comはキャリア企業なので、ネットワークの工事やマネジメントがすごく得意。中国には、ネットワークを含めたITインフラと、アプリケーションの案件をセットで入札に出すお客様が多く、NTT Comと組むことで差異化を図っています。こうしたコンビネーションは、IBMにもアクセンチュアにもなかなかできない。そういうわけで、このビル(NDC上海分公司)には、NTT Comも入居しています。
ローカル市場は新たな挑戦
──日系のIT企業が一番苦戦している中国資本のローカル企業の開拓についてはいかがですか。 松崎 はっきり申し上げて、中国資本のお客様をどう攻めるのかについては、まだまだ固まっていません。新たな挑戦、というのが正直なところです。ただ、分野として一つ決めているのは、航空業界。中国では、航空便の数が相当な勢いで増えることが見込まれていて、新興の航空会社も増加傾向にありますから、システムへのニーズが存在します。国有系の航空大手3社の開拓は難しいので、三番手よりも下の企業にターゲットを絞っています。NDCは、すでに航空系にノウハウがある人材をヘッドハンティングしていて、空港職員の管理システムなど、いくつかの案件を手がけ始めています。
──公共系や国有企業向けのビジネスは、やはり日系企業では難しいのでしょうか。 松崎 そうですね。今の私どもでは入り込めないでしょう。政府出身のキーパーソンを雇って、その人に動いてもらうなど、コネクションがある人材を手中に収めないと無理だと思います。プライムではなく、別の企業を間に挟むかたちであれば、受注できる可能性はありますが。ただ、それをやろうにも時間がかかりますし、今はその余裕はないですね。
──とはいえ、4月には国家機関の中国科学院ソフトウエア研究所(科学院)と共同で、SNSとヘルスケア分野などの研究センターを設立しています。どのようにして連携にこぎつけたのですか。 松崎 もともと科学院とは、本社の岩本(社長)を含めて、ずいぶん前からつき合いがありました。NTTデータは、過去に中国の人民銀行や中国版郵貯システムをお手伝いした経緯があって、昔、一緒に現場でやってきた人で、偉くなった人と今でもコミュニケーションを取っているんです。このご時世で、日系である私どもに国家機関が協力していただけるのは、画期的ですし、いい話ですね。
──公共向けビジネスへの足がかりにはならないのですか。 松崎 NDCからすると、この共同研究をいかに現地ビジネスに活用するかについて、当然考えてはいます。実は、すでに科学院の人にいっしょに営業に行ってもらうといった取り組みを始めています。
──最後に松崎さんの目標を教えてください。 松崎 まずは今年度に、一般法人系と金融系を合わせた現地ビジネスで、前年度の2倍の売上高を上げること。そして、今年度を含めた3年以内に、中国国内向けITビジネスを、日本向けオフショア開発に匹敵するボリュームにしたいですね。
将来は、中国でIBMやアクセンチュアなどの競合に勝てるような真のグローバルITサービスプロバイダになりたい。そのためには、地道にやっていくしかないというのが実際のところでしょう。中国だけでなく、他の地域のグループ企業とも連携を図りながら、地道に、着実に、挑戦を続けていきます。

‘欧米系のお客様は、完全にこちら(中国)で獲得した顧客です。中国でうまくいったことがきっかけで、欧米にあるグループ企業が仕事を取れたりしています。’
眼光紙背 ~取材を終えて~
中国に進出している日系ITベンダーで、ローカル企業の開拓に成功している企業を、私はまだ知らない。ほとんどのベンダーの顧客は、その大半を日系企業が占めている。
日系最大手SIerのNTTデータでさえ、中国国内向けビジネスは、ひと筋縄ではいかないのが現実だ。中国内の欧米企業向けビジネスは好調ではあるものの、現地のローカル企業に向けては明確な戦略を打ち出すに至っていない。くやしいが、これが現在の状況だ。日系ITベンダーは、中国では中堅・中小企業にすぎない。しかし焦りは禁物だ。未知の領域を攻めるには、一つひとつ手探りで感触を確かめながらビジネスを推進する必要がある。
松崎総裁は、現実思考のタイプだ。取材現場では、都合のいいことしか言わない人も見受けられるが、松崎総裁は現実のNTTデータの課題を明確に説明する。現在の戦略も、実行できる建設的範囲に収めているように感じる。時間はかかるだろうが、中国内での日系ベンダーの存在感を着実に高めていってほしい。(道)
プロフィール
松崎 義雄
松崎 義雄(まつざき よしお)
東京理科大学理学部を卒業後、1986年4月に日本電信電話に入社。88年7月にNTTデータ通信(現NTTデータ)に転じ、96年3月に香港支店担当課長、99年7月に秘書室課長を務めた。01年2月に辞職したが、09年1月に再入社し、その後はグローバルビジネスを担当。12年7月、NTT DATA(中国)の総裁に就任した。
会社紹介
NTTデータは、マイナー出資を含めて中国に22社のグループ企業を有していて、人員数は子会社だけで4000人に及ぶ。中国全体の売上高に占める日本向けオフショア開発と中国国内向けITビジネスの割合は、およそ8対2。オフショア開発の市場は停滞気味なので、中国国内向けビジネスをいかに拡大するかが今後の成長のカギを握っている。