日鉄ソリューションズ(NSSOL)は、ユーザー企業にとっての「ファーストDXパートナー」になる方針を掲げ、ユーザー企業とともにビジネスモデルの転換を推し進める。ユーザー企業のDX推進チームとの“共創の場”を通じて、先端デジタル技術を活用しつつ、競争環境が激変しても勝ち残れる新規ビジネスの創出に取り組む姿勢を明確に示す。改革の陣頭指揮を執る森田宏之代表取締役社長に話を聞いた。
DX推進チームに積極的に参加する
――今年度から経営トップとして舵取りをしてこられましたが、ビジネス環境はいかがでしょうか。
社長として初めての上半期(4~9月期)は、前年同期比で大幅な増収増益で、通期(2020年3月期)の業績見通しも上方修正できました。世界経済のマクロ的な観点では不安定要素はあるものの、足下の受注環境は依然として良好です。ユーザー企業はこの先のデジタルトランスフォーメーション(DX)を見越した下準備として、古いシステムの更改やクラウドネイティブな開発環境への移行、先端的なITの取り入れの機運が高まっていますし、実際に予算もついてきている。これが業績を押し上げている大きな要因です。
――DXの下準備の投資が増えているということは、DXの本命需要がこれから到来するということでしょうか。
DXを進めようとすると、その前段階の老朽化したシステムの近代化改修(モダナイゼーション)が必要になり、データやシステム統合、新しいアーキテクチャーに適応させるなどの需要が出てきます。現行のビジネスをデジタル時代に合わせて転換させるDX本来の領域まで至っていない前段階です。
では、DX本来の“本命需要”が当社にやってくるかといえば、実はそれほど簡単な話ではありません。DXはユーザー企業のビジネスプロセスやモデルを転換して、新しく参入してくる新規プレーヤーや破壊者から自らを守り、それらを押しのけて成長するところまで持っていく必要がある。極論するならば「このツールやシステムを入れれば生産性が2割アップします」といった程度の既存のSIビジネスの範ちゅうに収まってしまうような提案ではまったく通用しません。
――では、どうすればDXの本質に合致したビジネスになるとお考えですか。
DXを推進するためには、ユーザー企業の役員、事業部門、情報システム部門から有志が集まりDX推進チームができ、そのチームでプロジェクトを立ち上げるケースが多い。そのチームの中にITの専門家として当社も参加し、一緒にビジネスモデルの転換を考える。こうしたユーザー企業との“共創の場”を、まずはつくっていく必要があります。ユーザー企業と二人三脚でビジネスを立ち上げるわけですから、成功したときはリターンを折半し、失敗したときのリスクも共に負う。従来のSIビジネスの収益モデルとは大きく異なると見ています。
「NSSOL4.0モデル」の実現目指す
――DX推進ビジネスはSIerにとって本当に魅力があるのでしょうか。手間ばかりかかって、不確実な収益モデルのように見えます。
実際問題として、既存ビジネスを覆すような新規ビジネスは、そう簡単に立ち上がるものではありません。お客様の中には、「実験的なDXのパイロットプロジェクトばかり増えて、うちは下手な航空会社よりもパイロットが多い」と皮肉交じりの冗談が漏れてくるほどです。ただ、ユーザー企業がDXプロジェクトを立ち上げるときに、当社の名前が挙がるようにしたい。ユーザー企業から「あそこは仕様が決まってから開発を任せるSI会社」に分類されてしまっては、将来の伸びしろはありません。ユーザー企業にとって当社が「ファーストDXパートナー」でありたい。
当社では、要件や仕様を決めてシステム開発を請け負う従来型のSIビジネスを「NSSOL1.0モデル」と位置付けています。よほどのことがなければ赤字になることはない手堅いモデルですが、利幅も限られます。そして、システムの運用を請け負うアウトソーシングや、顧客の中に深く入り込んでITコンサルティングをはじめとする上流工程を担うインソーシングを行うビジネスモデルを「NSSOL2.0モデル」と呼んでいます。
ここまでくると、単なる外注先ではなく、「ITパートナー」と呼ばれるようになり、顧客企業の設備投資の計画をおおよそ予測できたり、IT投資に関して助言できたりと、顧客との関係が一段と深まります。DXパートナーは、そのさらに先になることから、「NSSOL4.0モデル」と呼び、そこの高みまで近づけるように努力しているところです。
――具体的には、どのような取り組みでしょうか。
DX推進チームに、ITの専門家として参加するわけですから、先端技術に明るくなければ話になりません。例えば、当社が強みとするデータ解析の分野では、親会社の日本製鉄と連携して高度なデータ解析/AI開発基盤の「NS-DIG(エヌエスディグ)」の構築を担っています。すでに採用している米DataRobot(データロボット)のAI自動化ツールや、新たに採用した当社の画像解析、深層学習ツール「KAMONOHASHI(カモノハシ)」などを組み込み、データの準備から解析、評価まで一貫して行えるプラットフォームです。
システム開発環境についても、これまで活用してきたSDC(ソフトウェア開発クラウド)基盤をより発展させるかたちで、「Tetralink(テトラリンク)」を20年4月から順次、プロジェクトに応用していく予定です。
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