半導体メーカーの先駆者としてグローバルに君臨してきた米Intel(インテル)。近年は競合他社の伸長を受け、強みである製造技術や設計力を磨き直して盛り返しの機会をうかがう。他方、日本市場では長年築いてきた企業からの信頼は根強く、新たに投入するAI PCやサーバー向け製品への期待は大きい。大野誠社長率いる日本法人は、国内顧客の需要を見極めながらビジネスを強化すべく、市場を活性化する取り組みを続けている。
(取材・文/下澤 悠 写真/大星直輝)
AI PCで課題に応える選択肢
――半導体市場において他社との激しい競争に直面していますが、再びシェアを取り返していくためどのような戦略を描いていますか。
半導体の設計から製造・販売まで、一気通貫で担っている企業はインテルのほかにありません。われわれの強みは製造技術力と製品設計力、そして販売力にあります。製造技術力の点では競合他社の後塵を拝している部分がありますが、この数年で追いつき、追い越すべく力を入れています。2025年に2nm相当技術である「Intel 18A」プロセスを採用した「Core Ultra シリーズ3」プロセッサー(開発コード: Panther Lake)の量産に漕ぎ着けたので、ようやくわれわれの技術力を試すスタートラインに立てたと認識しています。当然それに満足するのではなく、さらなる微細化に向け技術力を磨きます。
また製品力でも、これまではお客様のニーズに全ての面で応えられるような製品は出せていなかったという反省があります。大幅な見直しを経て26年1月に発表した今回のPanther Lakeは、従来比で性能がかなり向上しており、実際に採用したPCを使ってもらえればかなりの差を体感していただけると思います。26年も新製品を投入し、今後も製品力を強化します。
――過去のプロセッサーはどのようなニーズを満たしていなかったのでしょうか。
シリーズ1のMeteor LakeはPC単体で見れば性能は悪くないのですが、現在と比較してAI PCとしての性能は不十分だったと思います。次シリーズのLunar Lakeはその点を改善できたのですが、メインメモリーが統合されていたため拡張性が出せなくなっていました。試行錯誤しながらつくり上げたPanther Lakeはメモリーを切り離して拡張性を担保し、AI PCとしての十分な性能も発揮できます。期待できる製品を出せたと感じています。
――国内での事業や活動の方針を教えてください。
グローバルにおける強みのうち、特に販売力が日本に関わってくる部分です。営業力だけでなく、マーケティングが重要だと考えており、技術を生かした製品をどう訴求していくかという点にフォーカスしています。Panther LakeはAIに特化したチップであり、AI PCというハードウェアが整ってもソフトウェアの環境がそろわないとなかなかユーザーには訴求できません。そのためソフトウェアの充実に力を入れているのですが、単純に「グローバルではこういったものが動く」という話ではなく、日本語対応ができ、日本のユーザーが求めているようなつくりとなっている必要があります。
具体的には、AI推論最適化ツールキット「OpenVINO」をうまく用いてアプリケーションを開発する「PEAR Experience by Intel」という活動を進めてきました。最近ではAI駆動開発を用いてアプリケーションをつくり込むことができるので、そうした啓発活動も始めています。製品としては、例えばAI編集機能が多く織り込まれている動画編集ソフトの「Adobe Premiere」もAI PC上でスムーズに使えます。SNSに上げるコンテンツの自動生成や、議事録生成などのアプリケーションも登場しています。これらはクラウドでも当然できる処理ですが、レイテンシーやコスト、企業の内部情報をクラウドに上げて良いかといった課題に応えられる選択肢を増やすことができるでしょう。
DCの推論向け演算処理に期待
――サーバー用の製品でもシェアの奪還が課題となっています。
やはりサーバーも製造技術力と製品力、販売力が非常に重要です。製造面ではIntel 18Aを採用した次世代Xeon「Clearwater Forest」を26年後半に向け展開します。製品力に関しても見直しを重ね、今後はかなり魅力的な製品を出せると思っています。
今、データセンター(DC)の領域では、特に米国でGPUサーバーを用いるAI DCへの爆発的な投資が進んでいます。ただその中でも、やはりエージェント型AIの影響だと見られますが、計算資源が学習だけでなく推論に用いられる現象が起きています。それにより、GPUの需要はもちろんですが、CPUの需要も増えており、期待が持てる部分があります。日本では推論処理のニーズはまだ本格化していない面もありますが、いずれたどり着くはずであり、われわれとしてはその需要にきちんと応えられるようなかたちで製品を展開したいです。グローバルでも日本でも、われわれがいかにシェアを挽回できるかという面はもちろんありますが、まずは市場やお客様が向いている方向に対し、どう応えるかというのが非常に重要なポイントです。
幸い日本に関しては、まだ私どもを選んでいただけるお客様が大変多い状況です。DCもエッジサーバーも性能は非常に重要である一方、やはり品質に重点を置かれるお客様が多いのです。購入しても壊れてしまったり止まってしまったりすれば費用はかさみますので、経営陣の皆さんはかなり慎重に見極めながら選んでいただいているのではないでしょうか。
また日本では、ここ1年ほどで特に5Gの投資がどんどん進んでいて、多くの通信事業者がネットワーク技術の仮想化へ切り替えを進めています。われわれのCPUを伸ばすことができる側面があるので、しっかり力を入れていきます。この点でも日本は非常に重要なマーケットになっています。
――新たな領域として、高容量・広帯域・低消費電力を特徴とする次世代メモリー技術「ZAM」(Z-Angle Memory)の実用化に向け、米国本社がソフトバンクグループのメモリー製造企業とのパートナーシップを発表しました。
これだけ世の中が多様化している中では、いろいろなソリューションを考えないといけません。AIのGPUやアクセラレーターには必ずHBM(High Bandwidth Memory)というメモリーが同梱されていて、メモリーが全体の性能を左右する割合が増えてきています。ただ消費電力がとてつもなく増えている中で、HBMしかないというのは良くありません。あるものを売るというところから、新しくつくって売るという発想の転換が必要です。
今回の協業では、もともと米国で研究していた技術を、商用化までつなげるために共同開発を進めていきます。大容量化も期待できる技術で、商用化は供給の偏りを解消する意味もありますが、やはり消費電力の効率化の目的が大きいです。
価値に見合った対価を信じる
――教育分野ではSTEAM教育の充実に取り組んでおり、教育プログラムの提供なども手掛けています。こうした取り組みは自社のビジネスにも寄与していますか。
教育に関しては、単体の取り組みだけでビジネスをしようとはあまり考えていません。われわれにとって教育市場向けの取り組みは、事業化というより未来への投資と捉えています。インテルという企業はもうかれこれ30年近くこの教育分野に対して投資を続けており、新興国へのPC提供などをしてきました。すぐにお金にはなりませんが、日本でもそうやって子どものときからPCを使うことで、長い目で見てわれわれの将来の需要を担ってくれればという気持ちです。「将来使うのがインテルの製品(を組み込んだ端末)とは限らないじゃないか」と言われることもあり、当然、インテルの魅力的な製品が存在しなければここで頑張っても何の意味もないので、両輪でしっかり力を入れることが極めて重要です。
――最近のメモリー価格の高騰に対し、業界として何らかの打つ手はあるでしょうか。
各企業がそれぞれに対策を打っているところですが、(メモリー価格の高騰は)一時的な事象であり、半永久的に続くわけではないと思っています。PCの値上げによって、販売のボリュームベースでは多少減るかもしれませんが、金額ベースではあまり変わらないという見立てもあります。そもそも25年までの約2年間は「Windows 10」のサポート終了に伴うリプレース特需の期間だったため、26年に入ると少し落ち着くというのは元々見込んでいた面があり、あまり悲観はしていません。
もちろんわれわれはテクノロジーを普及させたいという希望があるので、価格が安いに越したことはありません。一方で、価値に本当に見合った価格で売るということは重要です。価値あるものは、その価値をわれわれも訴求していく必要があります。例えば10万円と15万円のPCを比べて、特に性能やできることがあまり変わらないというのでは良くないでしょう。やはり15万円を出すにふさわしい価値をきちんと伝えなければならず、さまざまな企業と相談を始めています。使っている製品が寿命を迎えた際に、以前と同じものが高くなっているならもう少し我慢して使い続けようと思うかもしれません。でも新しいことがたくさんできるようになるのであれば、見合ったお金を出していただけるでしょうし、それを信じて進んでいきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
インテルに入社したのは26年前。外資系テック企業のビジネスパーソンとしては珍しく、キャリアの大半を同社で積んできた。その理由を「飽きることがなかったし、今も全く飽きない」と笑って説明する。
就任以来、経営においては多くの課題に直面した時期を過ごしてきたはずだが、「人生は常に勉強」と前向きだ。不安もありつつ、しかし「わくわく」に近い気持ちで朝は勝手に目が覚めるといい、特に社長になってからの1年10カ月は「なかなか濃い内容の学び」があったと振り返る。
業界の変化のスピードは速く、現在のトップの立場は相当のプレッシャーがあると想像する。一方で、取材時には技術や社会課題への広い関心と強い好奇心が伺えた。常にさまざまな刺激を受けながら、挑戦することを心底楽しんできたからこその今があるのだろう。
プロフィール
大野 誠
(おおの まこと)
三菱電機の半導体事業本部を経て、2000年に米Intel(インテル)日本法人入社。OEM営業部長などを務めた後、14年から執行役員として新規事業推進本部長や戦略室長を兼任。24年から現職。
会社紹介
【インテル】米国本社は1968年、半導体技術者のロバート・ノイス氏とゴードン・ムーア氏によって設立。創業当初は半導体メモリー、続いてマイクロプロセッサーを主力製品とし、世界のPC向けCPU市場でデファクトスタンダードの地位を確立した。2025年12月期の売上高は529億米ドル。日本法人は1976年設立。