日本IBMの社長交代を巡り、橋本孝之社長は「次期社長はもちろん自分で決めたことだ」と話した。期中の突然の社長交代は異例であり、並々ならぬ事情があることは容易に想像がつく。社長交代発表前日の3月29日には、懸案だったスルガ銀行との訴訟で東京地方裁判所から74億円あまりの支払いを命じられており、また、ここ数年の日本IBMの業績をみても、他の欧米成熟市場におけるIBMのビジネスと比べて芳しいとはいえない状況だった。

 橋本社長は、スルガ銀行の一件と人事との関連を「判決の翌日にすぐに人事が決まるわけがない」と強く否定。裁判でも、すでに判決内容を不服として東京高等裁判所に控訴している。だが一方で、ここ数年来の業績の伸び悩みについては橋本社長自身も認めるところ。この打開策として決断したのが、米IBMのバイスプレジデントとして経営戦略策定を担当していたドイツ出身のマーティン・イェッター氏の社長起用である。

握手を交わす日本IBMの橋本孝之社長(写真左)とマーティン・イェッター次期社長。

 ドイツIBMの社長をおよそ4年務めてきたイェッター氏は、「例えば、トヨタやホンダ、メルセデス、BMWは、グローバルでビジネスを展開している」として、ユーザー企業が日本やドイツという地域に関係なくビジネスを行っている現代では、日本IBMもこうしたグローバル体制をより強化する必要があるとみる。

 イェッター氏への社長引き継ぎを決断した橋本社長は、「IBMのグローバル人材を日本IBMに連れてきた。日本の市場と顧客に向けて、IBMグループが投資を拡大することを意味している」と話す。日本IBMの年商はIBMグループの連結売上高の10%あまりを占めており、「一般的に考えられる以上の重みがある」(橋本社長)として、日本でのビジネスをテコ入れするにはグローバルのリソースを投入するしかないと考えたようだ。

 日本IBMは、自動車や電機、大手金融機関など、成長市場へ意欲的に進出する多数の優良顧客をもっている。日本IBMのあるビジネスパートナーは、「日本IBMは日本人が歴代の社長を務めてきたこともあってドメスティックな傾向が強く、これに国別の営業テリトリーの縛りが加わって、IBM自身がいうほどグローバル対応が進んでいない」と明かす。今回の社長人事は、まさにこの日本IBMの“弱点”を克服するための経営判断だった。

 社長としての“最後の仕事”は、次の社長を決めること。橋本社長は自らの決断で日本IBMのグローバル対応力を強化する道を選んだ。ただ、ドメスティックなビジネスをなおざりにするわけではない。「地域の日本IBMのビジネスパートナーのところには、これまで以上に多く足を運ぶ」(橋本社長)として、イェッター氏は主にIBMのグローバルリソースをフルに活用するグローバル顧客を担い、橋本社長は国内既存ビジネスの活性化に取り組む姿勢を示した。

 5月14日付で日本IBMの社長就任が決まったマーティン・イェッター氏は、4月1日付で日本IBMの取締役に就任した。橋本社長は「実質、2人で日本IBMを運営していくことになる」と、取締役として引き続き経営に携わることを明らかにした。(安藤章司)