<企業情報>
米Tricentis(トライセンティス)は2007年に設立。AIを活用したソフトウェアなどのテスト自動化ソリューションを提供。独SAP(エスエーピー)など多くのテクノロジー企業とパートナーシップを締結し、グローバルの顧客数は18カ国で3000社以上。日本法人は24年に設立。国内では伊藤忠商事がSAPのERPを刷新する際に導入した事例がある。
日本は、人口減少による人手不足が顕著になっている。IT業界も例外ではなく、IT人材の確保は企業にとって大きな課題の一つだ。システムの刷新など大きなプロジェクトを進めるには、問題なく稼働するためのテスト実施が重要になるが、その自動化でビジネスを伸ばそうとしているのがTricentis Japanだ。AIを活用したテスト自動化ソリューションで、大幅な時間と工数削減に寄与しているという。国内ではパートナーの案件増に貢献し、共にビジネスを伸ばしていくことを狙う。
(取材・文/堀 茜)
IT人材不足の解決を支援
ソフトウェアのテストソリューションを提供する米Tricentis(トライセンティス)。テストに関わる全ての工程に必要な機能を一気通貫に提供している。ノーコードでのテストケースの作成から実行、本番移行後の保守まで継続した利用が可能で、データ移行も自動化する。システムの新規開発の場合、開発要件に合わせてテストシナリオの作成、それにひも付いたテストケースの作成といった多くの作業が発生するが、一連の作業をマネジメントし、進捗管理が可能だ。システムの修正やバージョンアップの場合は、テストすべきスコープの特定によって最適な作業を提案し、短いサイクルでテスト実行できる点が強みになっている。
成塚 歩 代表執行役
導入による大きなメリットが、テストにかかる工数と時間を大幅に削減できる点だ。開発要件を読み込んで生成AIがテストシナリオをつくる機能も実装しており、製品の多くの部分をAIで自動化。テストにかかる工数は、平均で50%削減を実現している。
Tricentis Japanの成塚歩・代表執行役は、日本法人を設置し国内で本格的にビジネスを始動した狙いについて「IT人材の不足をテスト自動化で解決したい」と語る。エンタープライズ企業は大規模で複雑なシステムを運用し、そのテストにも多くの工数と時間がかかっているのが現状だ。国内の事例では、基幹システムのモダナイゼーションでテストの実行時間を38%短縮、工数を65%削減したケースがある。
テストソリューションによって効率化が進むと、テストの品質向上も期待できる。コストや人員の関係で1回しかテストを実施できていなかった部分が、自動化によって余裕が生まれることで、重要な箇所には複数回テストが行えるようになり、安定稼働につなげられる。
パートナーと一体で顧客に提案
拡販にあたって、パートナーとの協業を重視しており、SIerが主なパートナーとなる。最も注力するのが、独SAP(エスエーピー)との協業だ。グローバルでのパートナーシップを基に、日本でも2023年からSAPジャパンと提携。SAPシステムに適応するテストソリューションをパッケージ化して提供している。国内企業はSAPのERP採用率が高く、「ECC 6.0」は27年末に標準保守期限を迎えることもあり、システム刷新にあたりテストソリューションの需要も高まっている。SAPはトライセンティスのテストソリューションを標準として提案しており、案件も順調に伸びているという。テスト自動化によって、テスト業務が大幅に省力化できるため、パートナーが対応できる案件数を増やせる点を訴求している。
さらに、同社の製品の強みの一つは、大半のベンダーのシステムにも適応可能な点だ。「SAP以外のシステム構築を手掛けるパートナーからの需要も多くある」(成塚代表執行役)。また、システム構築時に限らず、メンテナンスなど保守運用のフェーズでも活用できる。アプリケーションの運用を請け負うAMS(アプリケーションマネジメントサービス)を提供しているパートナー向けに、多様なベンダーに適応できる点をアピールしている。
日本法人設立からの1年間で、売り上げは前年比2倍強と順調に推移している。成塚代表執行役は「日本市場は、伝統的なシステムを使っている企業も多く、当社ソリューションを拡販できる可能性が非常に高い」とみる。拡販に注力する企業規模は、売り上げ1000億円以上のエンタープライズと、SMB(中堅・中小企業)の中でも大手企業並みの大規模な情報システムを保有する企業をメインターゲットとしている。
25年の成長戦略として、パートナー向けのアドバイザリーサービスの開始を予定する。パートナーに製品の理解を深めてもらい、顧客へ提供できる価値について、パートナーと一体となって顧客に提案できるよう、日本法人の人員を強化していく方針だ。事業目標として、日本法人設立から5年以内に売り上げ150億円を掲げる。成塚代表執行役は「日本企業はDXを加速度的に進めるタイミングにある。アプリケーションのリリースサイクルを早めることで貢献したい」と展望する。