セキュリティーサービスを展開するSYNCHROは、山口市に設置した拠点「サイバーセキュリティ対策センター(CSCC)」を活用して、顧客の事業環境の保護を推進している。CSCCは地元の人材を中心に運営しており、地場でセキュリティー人材の雇用を創出している。室木勝行社長は「山口発の地方創生モデルを全国に広げたい」と意気込み、各地にサテライトオフィスを設置し、自社商材を拡販する戦略を描く。
(取材・文/大畑直悠)
トータルアクセスコントロールを提供
――事業の概要を。
前身である宇部電業から2001年に第二創業し、セキュリティー製品を展開している。サイバー空間と物理環境のどちらも保護する「トータルアクセスコントロール」を提供する企業として、独自開発の手の甲静脈認証システムで入退室の管理や、暗号化通信技術「KATABAMI」でネットワークの安全性を確保する支援などを行っている。
第二創業時から主力事業として展開してきたのは静脈認証システムで、3000社を超える企業に導入している。23年にスタートしたサイバーセキュリティーのビジネスでは約20社の顧客がおり、中小企業を中心に支援している。
――サイバーセキュリティーでは、どのように顧客を支援しているか。
山口市に設置したCSCCを拠点として事業を展開している。KATABAMIによる通信を通して遠隔で顧客の事業環境を監視する脆弱性診断サービス「KATABAMI VDP」やバックアップサービス「KATABAMI CSR」などを提供している。
――山口市にCSCCを開設した理由は。
安定的にサービスを提供するためのBCP拠点を置く上で、台風が少なく、活断層があまりないなどの理由で最適だったからだ。また、KATABAMI VDPは遠隔で提供できるサービスであるため、都内に拠点を置く必要性もなかった。
地方創生という意味合いもある。故郷である山口の雇用創出に貢献したいという思いがあった。CSCCでは同県の事業と連携しながら、地元の女性や新卒など24人を採用・育成してきた。今後も増員を計画している。
間接販売に注力する段階に
――中小企業のセキュリティーに関する意識は。
ランサムウェア攻撃の脅威は感じているものの、予算を確保して対策まで講じている経営者は少ない。まだまだ対岸の火事だと考えている。提供している脆弱性診断サービスは毎月、定点観測してセキュリティーリスクを可視化する。まずは顧客の現状を明らかにして、リスクをつぶすための提案やコンサルティングを提供している。
室木勝行 代表取締役社長
――今後の販売戦略は。
KATABAMIシリーズはこれまで、直販で顧客を獲得してきたが、実績やノウハウがたまってきたため、今後は間接販売を通じて顧客を拡大する段階にきている。パートナーとなってもらう企業に、唯一お願いしているのは当社のKATABAMIシリーズを使ってもらうこと。場合によっては当社がパートナーのセキュリティー環境の向上に寄与できる部分もあるだろう。パートナーにもKATABAMIシリーズの良さを体感してもらい、顧客に推奨してほしい。
パートナーとなってMSPのように顧客の環境を守りたいという声はすでに多くあり、国内だけではなく、海外からもニーズがある。手の甲静脈認証システムに関しても代理店販売を進めている。
教育と働き方の柔軟性で人材を獲得
――今後の展望は。
山口で培った地方創生のモデルを全国に展開したい。CSCCの人材獲得を進めている中で、フロアの限界もあり、増床しようとは考えていない。各地でサテライトオフィスを設置し、雇用を創出してセキュリティー人材の地産地消を目指したい。
山口県は大都市である広島と福岡の中間に位置し、人材が流出しやすい場所だ。同じような課題を抱えている地方はほかにもある。各地で人材を定着させるために就職環境を用意することは意義があるだろう。企業のセキュリティー人材の不足も全国的な課題であるため、KATABAMIシリーズを活用した支援は、ニーズが大きいはずだ。
――人材の獲得はどのように進めるか。
当社は、入社してもらってから育成することに注力している。人材不足の中で始めから専門的な人材を獲得しようとしても上手くいかない。セキュリティーの需要は伸び続けており、半年間は戦力にならなくても、戦力になるまで教育する覚悟を持ち、稼げる人材に育ってもらっている。
多様な働き方を整える点も大切にしており、テレワークやパートでの働き方など柔軟な雇用環境を用意している。年齢性別を問わず、ITやセキュリティーに関して専門的な知見を身に付け仕事に生かしたいとの意欲を持つ人は多い。例えば出産を機に一度職場を離れた女性が、柔軟な環境で働きたいと望むこともある。こうした希望を叶えて誰もが活躍できるようにしたい。
Company Information
宇部電業の75周年目に株式移転により第二創業し、2001年に設立。手の甲静脈認証システムや暗号化通信技術「KATABAMI」を利用したサイバーセキュリティー製品などを提供する。22年に山口市にサービス拠点「サイバーセキュリティ対策センター」を開設している。東京に本社を、山口市に支店を置く。