北海道に本社を置くミュートネットは、函館市を中心とする道南地域の地場企業のDXを推進している。基幹産業の食品製造業向けには生産管理システムを開発した。小規模から導入できる機能特化を強みに、全国展開を視野に入れる。
(取材・文/春菜孝明)
ワンストップで経営支援
――事業の紹介を。
ITに関わるハードウェア、ソフトウェアの導入からトラブルサポートまで、企業が持続的に成長するためのDX経営支援をワンストップで行っている。単にITツールを導入するだけでなく、まずはお客様の現状を丁寧にヒアリングし、事業全体を深く掘り下げた上で課題に対する分析を行い、経営戦略の策定段階から携わっている。
函館市や支援機関の専門家派遣事業の一環でDX推進を支援するケースも多い。エリアでも数少ない「ITコーディネータが伴走するベンダー企業」として、お客様の成長を包括的にサポートできるのが強みだ。
文教分野では地元自治体からGIGAスクールサポート業務を受託し、学校現場でのICT活用を支援している。先生方が安心して端末を使えるよう、操作方法の説明やトラブル対応など、現場に寄り添った支援を行っている。また、DX関連のセミナーや講演依頼があった場合は極力対応している。地域の事業者に向けてDXの本質や導入のステップを分かりやすく伝えるために重要な活動の一つになっている。
――顧客が抱える課題は何か。
地方では「何をどう始めれば良いか分からない」という企業がまだまだ多い。部分的なIT導入がかえって業務負担になっているケースもある。特に10人前後の企業ではIT文化が未開拓な上、過去の成功体験がDX化への障壁となっている。「汗をかいてなんぼ」「楽してはならない」といった文化や風土が根強いからで、経験則に頼った業務のため、デジタルデータの蓄積がない「ゼロスタート」の状態だ。
DXの第一歩を踏み出すためには、こうした従来の価値観を見直すことが不可欠になっている。
現場の声を反映
――独自開発の製品は。
食品製造業向けの生産管理・在庫管理システム「MACCA(マッカ)」を開発した。資源が豊富な道南地域で、食品製造は重要な基幹産業だ。しかし現場では、製造工程や在庫について紙のバインダーで管理し、表計算ソフトに転記するなど時間と労力がかかっている。食品の安全管理手法「HACCP(ハサップ)」が2021年に義務化され、正確な記録保持の重要性も高まった。
市村淳一 代表取締役
こうした制度への対応と業務効率化のツールとして提供している。製造記録や衛生チェックなどを一元管理でき、HACCP対応と現場のDXを同時に実現する。正確なデータに基づく生産計画の最適化も期待できる。土産品の製造工場などで活用いただいている。
――ほかのツールとの違いは。
小規模事業者でも無理なく使える設計が導入の決め手となっている。他社のオールインワン型のソリューションに比べ、在庫や生産管理に特化しているため低コストで導入できる。現場作業員が使いやすいよう、画面設計をシンプルにし、直感的な入力が可能となっている。原料や包装資材など多様な在庫管理をはじめ、さまざまな業務プロセスに対応する柔軟性を持たせて構築した。「お客様の声をカタチにする。」という理念のもと、開発にあたっては実際の食品工場を見学し、小規模事業者の実務に即した機能を目指した。
意識の変化がDX
――今後の戦略は。
MACCAのプロモーションを強化し、同じ課題を抱える全国の中小規模の食品製造事業者へのアプローチを強化していく。IT導入補助金の対象製品となっており、導入のハードルを下げる仕組みが整っている。旧知のITコーディネータやベンダーを通じて横展開したい。パートナープログラムも検討している。
――意気込みを。
DXは単なる技術導入ではなく意識の変化によるものだ。「このままでいいのか?」という気づきからマインドチェンジを促し、企業変革の推進につなげる。
また、生成AIの普及によって、IT支援者の役割も変わりつつある。顧客はITの専門知識がなくても、ノーコードやローコードで簡単にツールを導入できる。われわれは、事業者が本当に困っている部分やニーズ、課題感を言語化するサポートがより求められている。今後も地域に寄り添いながら、企業の未来を共に描いていきたい。
Company Information
1997年設立。本社は北海道七飯町。DX経営コンサルティングをはじめ、自社開発ソフトの販売、ITサポートを展開。地域のGIGAスクールサポーターも担う。社員は10人。