札幌市のイークラフトマンは食品流通向けのEDI(電子データ交換)システムを提供し、道内の食関連産業で地位を確立している。地域特性を踏まえた機能実装が強みだ。国内だけでなくアジアを中心とした海外展開にも注力。新山将督・代表取締役は「北海道発のコンテンツの発信に取り組む」と意気込む。
(取材・文/春菜孝明)
食品卸の課題を解決
――事業の紹介を。
受発注システムなどクラウド型のEDIサービスを提供している。前職でEDIシステムの構築に従事していた際、一社一社を訪問してオンプレミス環境にアプリケーションをインストールする運用に限界を感じた。データセンターで一元管理して広域をカバーする仕組みへの転換が必要だと考え、クラウドの概念が一般的ではなかった2007年に起業した。北海道の食品製造や卸売業が中心だったが、現在は物流や小売りなどサプライチェーン全体に広がっている。
食品卸の現場では、多数の店舗から異なる注文を受け、総量をまとめて工場に製造指示を出す必要がある。納品先ごとに異なるフォーマットやルールに沿って納品書や指示書を作成しなければならず、表計算ソフトや複数のアプリケーションを組み合わせて対応している企業も多い。こうした仕組みは属人化を招き、担当者が不在だと業務が滞る可能性がある。当社では、これらの業務をワンストップで効率化できる仕組みを提供している。
――差別化要因は。
生鮮食品や日配品の流通に対応できる点だ。毎日配送が必要な食品で、当日午前に発注、午後には納品という短納期のサイクルが求められる。当社のシステムは温度帯管理が必要なコールドチェーンにも対応しており、スピードと品質の両立を実現している。こうした仕組みを専門的に提供できる企業は少なく、特に北海道では高いシェアを維持している。北海道は都市間の距離が長く、ほかの地域とは異なるサプライチェーンの構造を持つ。地域特性を理解した上でシステムを構築できることが強みになっている。
ほかにも物流会社との連携も進めており、送り状データと自動で連携している。飲食や物販といった自社事業を展開する中で、現場で得た知見をシステム開発に反映している。
ITのサービス化は好機
――顧客はどのような課題を抱えているか。
人口減少による担い手不足が大きい。さらに食品製造や卸売業の景況感は厳しく、設備投資に踏み切れない企業が多い。半面、ITはどんどんサービス化が進んでいる。システムを一括購入する時代より導入費用は高くなっていない。DXを進めれば人的リソースが限られていても業務を効率化することができる。それに気づき、うまく活用できれば、少人数でもチャンスになるとみている。
新山将督 代表取締役
――企業のIT支援をどのように行っているか。
物流システム構築の経験をもとに、企業の実態に即した提案を行っている。社内にはITコーディネータが4人在籍しており、現場の課題に寄り添いながら、業務改善につながるコンサルティングを提供している。単なるITベンダーとしてではなく、顧客にとって最適なソリューションの組み合わせを重視し、他社製品との連携や業務フローの見直しなど幅広い視点から支援を行っている。ユーザーは口コミや紹介が多く、地域密着型の信頼関係を築いている。最近では受発注から決済まで担う仕組みが評価され、請求書の自動発行や、FAXからWebへの発注システムの転換などで食品関係以外からの引き合いもある。
全国、アジア展開を加速
――海外展開について教えてほしい。
14年からベトナムのホーチミンに現地法人を設立し、オフショア開発を行っている。具体的にはEDIシステムに加え、オープンソースのERPをベースにした在庫管理や検品などの物流システムを開発している。
現地企業向けにITサービスも提供している。こうした取り組みを通じて当社ソリューションの海外展開を着実に進めてきた。また、ウズベキスタン政府が主導して外国企業を誘致する同国のITパークを足掛かりに、さらにアジア圏への進出を目指している。現地で欧米型のシステムに触れる機会も多いが、業務プロセスへのきめ細かい対応は日本のほうが優れており、アプローチを強めたい。
――国内事業の今後の展望は。
道内を中心に多くの顧客を抱えているが、全国への広域展開を重視していきたい。システムのネットワーク構造を生かし、既存の取引先から新たな企業とつながることでサービスの広がりを図る。
EDIはインフラであり、一度導入すると乗り換えは難しい。そのため、ターゲットはEDI未導入や老朽化したシステムを使い続けている中小企業になる。新たな市場として開拓したい。北海道のコンテンツを、道外や海外に広げていく。
Company Information
2007年設立。本社は札幌市。食品流通システムのクラウド型EDIサービスを提供する。ベトナムに現地法人を持つなど海外にも展開している。