生成AIの急速な普及に伴い、多くの企業がその活用を模索している。運用方法を従業員へ全面的に委ねる企業もある中、佐賀市に本社を置く木村情報技術は、AIを導入した顧客が成果を出すことに重点を置きビジネスを展開する。10年以上にわたりAI事業を継続してきた強みを生かし、顧客と伴走しながらゴール設定や仕組みづくりを支援している。
(取材・文/南雲亮平)
現場主導のAI活用
――事業の概要は。
当社はWeb講演会の運営・配信を事業基盤としており、売り上げの約7割を占める。主なクライアントは製薬会社で、各地にスタッフとスタジオを配置し、事業は成長を続けている。
森 祐二 営業本部法人営業部 シニアコンサルタント
AI事業は、もう一つの柱として10年前から手掛けており、徐々に業績を伸ばしている。2016年に登場した、自然言語処理に優れたAI「IBM Watson日本語版」を活用し、薬に関する情報の自動応答システムを開発したことがきっかけだ。
当初は医療・医薬品業界向けに展開していたが、次第に製造業など他業界からもニーズが高まってきた。使い方や求める成果、AIに学習させるデータは異なるが、培ってきた技術や仕組みを活用し、ユースケースごとにカスタマイズしながら事業を拡大している。
私は16年に入社して以来、AIサービスの新規事業立ち上げから組織づくりなどに携わりながら、各地のお客様に向けたセールスやマーケティング活動に従事してきた。こうした実績をきっかけに、最近は、AI活用をテーマにした各地のセミナーなどに招いていただくことも増えている。
――企業が抱える課題は。
「AIを導入したが成果が見えない」という悩みが多い。現在、多くの企業がAIツールを導入しているが、利用範囲は議事録作成や資料要約など初歩的な用途にとどまっている。このままでは企業として大きな付加価値を創出することや費用対効果を実感するのは難しい。
また、戦略の欠如や現場への教育不足も深刻だ。アカウントだけ配布し使い方を現場任せにしていると、現場はAIをどのように業務へ組み込めばよいのか分からず、結局コストだけが発生する。地方の多くの現場では、総じてPCが1人1台支給される状況にはない、あるいは紙ベースのチェック体制が根強いなど、環境面での課題も依然多い。
――解決につながる独自の強みは。
現場で成果を出すことに重点を置き、導入から運用まで一貫して支援する点だ。AI導入で成果を出すには案件ごとにゴールを明確にすることが不可欠となる。当社は導入時に現場業務の調査や活用法の教育を実施し、顧客と伴走しながら目標を定めて個別開発へ進み、運用も継続的に支援できる。
こうした流れの中でエンジニアの役割も変化している。コーディングだけでなく、現場に出向いて顧客の課題を聞き取り、直接作業を観察し、その場でモックアップを作成するなど、スピード感が求められるようになった。当社は全国に拠点を持つので、現場に行きやすい点も強みになっている。
――成果は顧客にどのように説明しているか。
事例により異なるが、多くの場合、まずROI(投資利益率)分析を行う。例えば、製造業では最初に不具合発生により生じる平均的なコストを算出する。次に、当社の支援によるAI導入・運用コストおよび不具合リスク低減によるコスト削減効果を提示することで、比較検討できる材料を用意する。また、教育や働きやすい環境整備による社員定着など副次的効果も数値化して提示している。
――具体的な活用事例は。
製造業における不具合報告の効率化や真因分析の支援で実績がある。従来、不具合報告は手間がかかるため、「作業者の不注意なので、以降、注意します」などと片づけられることもあるが、AIエージェントとの対話形式にすると、短時間で本当の原因にたどり着くことができる。具体的には、電力会社での危険予知活動や、コールセンターでのAIによるオペレーター訓練など、現場の安全やスキル向上に直結する領域での成果が出始めている。
支援範囲を広げる
――今後の注力領域は。
一つはAIによる製造業の品質管理支援だ。製造過程における不良品処理や顧客からの問い合わせ対応まで、当社の経験を生かして付加価値を提供していく。ここを事業の軸として磨き上げ、他業種への展開も視野に入れてスケールさせていく方針だ。
加えて、地方の中小企業が直面している、AI活用におけるセキュリティーやガバナンスの課題にも対応していく。現在、情報セキュリティー人材のニーズは高いが、所属するのは大手企業に集中している。今後、中小企業の情報システム部門はますます負担増が見込まれることから、当社もAI活用支援だけでなく、守りの体制強化にも注力していく。
――人材はどのように集めるのか。
本社のある佐賀県で、「DI SCHOOL SEIRENKATA」というIT人材の育成プログラムを支援している。佐賀大学や有明工業高等専門学校とも連携しており、同校出身の社員も多い。次世代のIT人材を地域から輩出する取り組みは継続していく。
Company Information
2005年に設立。Web講演会やAIサービスの研究・開発・導入支援、セキュリティー・インフラ支援、eスポーツ、メタバースなどを手掛ける。佐賀県に本社を置き、都内と大阪市、名古屋市、福岡市、札幌市に五つの支店と11の自社スタジオを構えている。従業員数は396人(25年3月1日現在)。佐賀県の教育現場と連携し、IT人材育成にも力を入れる。