主要SIerの2025年4~9月期の業績は、国内の好調なIT需要に支えられて増収増益となった。海外事業の規模が大きいNTTデータグループと野村総合研究所は、インフレや米国関税などの影響を受けて一部で伸び悩みが見られたが、国内需要でカバーして会社全体としてはプラスで着地した。ユーザー企業の本番環境にAIを実装するビジネスは伸長し、SIer側でも、AIによるコードの自動生成といった生産革新が本格化しつつある。
(取材・文/安藤章司)
NTTデータグループ
国内増収、北米受注増に手応え
NTTデータグループの売上高は、好調な国内事業と海外データセンター(DC)設備の譲渡益1295億円によって前年同期比5.4%増の2兆3605億円となった。営業利益は国内では不採算案件の発生や大型案件の反動減、人材確保による販管費の増加など減益要因があったものの、DCの譲渡益が補い、80.5%増の2690億円と大きく伸びた。
「日本セグメント」は、公共・社会基盤、金融、法人の主要3分野でいずれも増収。営業利益は金融、法人で増益となった一方で、公共・社会基盤分野は不採算案件の増加、高利益率案件の反動減などで前年同期を下回った。上期受注高は3分野とも増加し、16.7%増と好調に推移。収益面で課題を残したが、売り上げベースでは引き続き伸びる見込みだ。
「海外セグメント」のDC売却益と為替影響を除いた上期売上高は、北米とAPAC(アジア太平洋)が減収、EMEAL(欧州・中東・アフリカ・中南米)とDC事業を含むGTSS(Global Technology and Solution Services)が増収となった。北米の上期受注高は21.5%増と好調に推移していることから、「下期以降、売り上げへの計上が見込まれる」(佐々木裕社長)と、回復への手応えを示す。
佐々木裕 社長
ここ数年、主力の北米市場での不調が続き、欧州のビジネスで海外SI事業を支える構図が続いていたが、24年秋から北米市場の大型案件を重点的に開拓する専門組織を立ち上げるとともに、インドの人的資源をフル活用した競争力強化を進めており、その効果が徐々に出始めているという。欧州事業については、懸案だった英国でのSIビジネスが増収増益に転じたものの、ドイツの自動車業界が米国の高関税の影響を受けていることから、EMEALの上期受注高は3.3%増の伸びにとどまった。
生成AI戦略では、25年5月に米OpenAI(オープンエーアイ)と国内販売代理店契約を結んで27年度に累計1000億円の売り上げを目指すとともに、7月には仏Mistral AI(ミストラルエーアイ)とプライベートAIの共同開発を発表。8月には「Google Cloud」を活用した業界特化型のAIエージェント事業を加速させることを明らかにし、10月にはNTTが開発した国産LLM(大規模言語モデル)の最新バージョン「tsuzumi 2」の販売をスタートさせている。11月には米シリコンバレーにAIの技術やビジネス動向の情報を収集する新会社を設立し、AI開発の最新動向を常に観測できる体制を強化した。
NTTデータグループのSIプロジェクトの生産革新にも生成AIを積極的に取り入れており、26年3月期は約500件のSIプロジェクトにAIを活用して20%程度の生産性向上を目指している。27年度にはSIプロジェクト全体の半分にAIを活用し、40%の生産性向上を目標に据える。AIによる自動化が進むのに合わせて従来の「人月ベースの価格設定」から「価値ベースの価格設定」により一層と軸足を移していく。
通期の売上高は前期比6.4%増の4兆9367億円、営業利益は61.2%増の5220億円を見込む。NTTデータグループはNTTの完全子会社化に伴い、国内法人向けITビジネスを手掛けるNTTドコモビジネスなどのグループ会社との相乗効果を高めていくための組織改編の検討を進めており、「来春以降に具体的な発表をしたい」(NTTの島田明社長)としている。
野村総合研究所
増収増益も海外伸び悩みが課題
野村総合研究所(NRI)の売上高は、好調な国内事業に支えられて5.4%増の3970億円、営業利益は20.1%増の787億円となり、増収増益だった。コンサルティングや金融ITソリューション、産業ITソリューション、IT基盤サービスの四つの主要事業セグメントのうち、すべての国内セグメントが増収増益となった一方、オーストラリアなど海外事業の伸び悩みによって、国内外を合わせた産業ITソリューション事業セグメント全体の売上高は前年同期並みとなった。
国内事業は、米国の関税増の影響を受けて、コンサルティングのセグメントで一部受注の停滞が見られたが、第2四半期(25年7~9月)以降は、おおむね正常化。現時点では米国関税の影響は限定的であり、国内の全事業セグメントで需要拡大が継続する見通しだとしている。
柳澤花芽 社長
成長要因の一つとして生成AI関連の受注が80%増と大きく伸長。柳澤花芽社長は「AIの試験的な導入のフェーズから本番環境への応用案件が増えており、案件規模も大型化している」と話す。NRIの強みであるコンサルティング能力を生かし、セキュリティーやガバナンスを含めたAI戦略全体の立案から導入、運用までをワンストップで提供することでビジネスを伸ばす。AIを活用したプログラム生成やテスト自動化などの生産革新も進展しており、新規案件の半分以上でAIを活用している。AI活用によって4割ほどの工数削減が可能だとしている。
一方、海外事業については、オーストラリアでの上期売上高が12.5%減の328億円、営業利益が3億円の赤字、北米は売上高こそ7.8%増の168億円だったが、営業利益は4億円の赤字と振るわなかった。景況感悪化による意志決定の先送りや、ユーザー企業での内製化割合の増加が影響し、収益性が低下。受注高ベースでも3.6%減の442億円にとどまっており、「受注の回復は当面見通しづらい状況」(柳澤社長)。海外の一部事業の切り離しや構造改革、場合によっては追加でM&Aを実施することも視野に入れる。
M&Aでは、25年6月にオーストラリアの事業会社で証券取引管理などのバックオフィスサービスを提供しているAustralian Investment Exchange(AUSIEX=オージーエックス)とのビジネスの相乗効果を見越して、債券管理などのプラットフォームサービスを提供する豪FIIG Holdings(フィーグホールディングス)をグループに迎え入れている。
通期の予想は売上高が5.9%増の8100億円、営業利益が11.2%増の1500億円で、26年3月期までの3カ年中期経営計画の業績目標を達成できる見込み。
TIS
インテックとの合併で成長に弾み
TISの売上高は4.7%増の2885億円、営業利益は16.5%増の355億円で、営業利益率は上期として過去最高となる12%台に到達した。事業セグメント別に見るとオファリングサービス、BPM(ビジネスプロセスマネジメント)、産業IT、広域ITソリューションが増収増益で着地し、金融ITは前年同期の大型案件の反動減で減収増益だったものの、全体として業績を押し上げた。
TISは26年7月1日付で主要事業会社のインテックと合併し、社名を「TISI」に変更することから、本年度から来年度にかけて合併関連費用として20~30億円を計上する予定である。08年4月にインテックホールディングス(現インテック)と共同持株会社のITホールディングス(現TIS)を設立してから実に18年越しで両社の合併に踏み切る見込み。
岡本安史 社長
今のタイミングで合併を決断した理由について岡本安史社長は、「生成AIの登場など外部環境の変化が大きく、経営資源を集中させる必要がある」ことを挙げる。合併後のTISIでは33年3月期までの単体売上高のCAGR(年平均成長率)は6%を想定しており、足元の約4%より2ポイントの改善を目指す。生成AIを活用した生産革新も並行して進める計画で、システム開発の全工程に生成AIを活用し、30年3月期までに25年3月期と比較して50%の生産性向上を目標に据える。
TISは首都圏大企業を中心とする顧客基盤を持ち、インテックは全国規模の広域展開力を強みとしてきた。これまでもTISインテックグループとして一体的な経営を行ってきたが、合併によって機動的な資本配分や意志決定のスピードを一層加速させることで、33年3月期までの6年間の売上高ベースの相乗効果を600億円、営業利益で30億円を見込んでいる。量子コンピューターや光電融合といった新技術に対しても「TISIとして従来にも増して迅速に対応できるようにしていく」(岡本社長)と、外部環境の変化に強い組織づくりを図る。
通期業績については、受注高も安定的に積み上がっていることから上方修正し、売上高は2.9%増の5880億円、営業利益は8.6%増の750億円を見込む。