BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『しなやかな日本列島のつくりかた』

2014/06/19 15:27

週刊BCN 2014年06月16日vol.1534掲載

「地元」の再生が日本を救う

 田舎には「里山」という貴重な資産があって、人々は経済的にも精神的にも豊かな生活を送っているという趣旨の、藻谷浩介氏の手になる「里山資本主義」という本がある。その続編ともいうべきが、今回取り上げる書籍だ。社会学者、地域経営プランナー、農業経済学者、医師、不動産会社社長など、それぞれの持ち場に造詣の深い7氏との対話によって、日本再生の道筋を探ろうとしている。

 まずは商店街の再生について。社会学者の新雅史氏は、商店街がシャッター通りになるのは、日本の土地所有制度の欠陥が露呈しているからだと断じる。跡継ぎがいなくて店を閉めた店主が、不動産を手放そうとしない。こうして商店街は内部から腐っていくという構図だ。起業家精神をもった若い世代が店主になることが特効薬という。

 ダメな地域というのは、B級グルメ、単発イベント、ゆるキャラの三つを必ずやっている。その地域の既存の資源をしっかり活用して育てるという話にならず、新しい何かに飛びつきたがると警鐘を鳴らすのは、地域経営プランナーの山田桂一郎氏。スイスの山岳リゾートであるツェルマットの例を引きながら、なぜ世界中から観光客を引き寄せることができるのかを明らかにしている。

 そのほか、道路には巨額の建設費や維持費を費やしながら、多くの人を安全に運ぶ鉄道には「赤字路線」のレッテルを貼って廃線にしたがる政策の愚などが指摘されている。

 目からウロコが落ちる本である。(仁多)


『しなやかな日本列島のつくりかた』
藻谷浩介 著
新潮社 刊(1200円+税)
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