こうしたアプローチで実現した、SaaSを含むマルチクラウド環境を上手くコントロールするために、IBMでは「IBM Cloud Pak for Multicloud Management」を提供している。前述したようにIBMはオープンソースも含め、同社が扱う全てのミドルウェアをOpenShiftに最適化して提供する。そのミドルウェア群をユースケースに合わせ事前に統合して提供するのが「IBM Cloud Paks」だ。
8月にCloud Paksをリリースした時点で、IBMではすでに100種類以上のソフトウェアをコンテナ化済み。現時点でそれらを「IBM Cloud Pak for Applications」「IBM Cloud Pak for Data」「IBM Cloud Pak for Integration」「IBM Cloud Pak for Automation」「IBM Cloud Pak for Multicloud Management」という五つのCloud Paksで提供している。
IBM Cloud Pak for Multicloud Managementは、マルチクラウドを可視化しマルチクラウドで利用する際のガバナンス管理などを自動化できるミドルウェアのセットだ。SaaSを含む複数のパブリッククラウド、コンテナベースのプライベートクラウド環境をダイナミックに運用監視できる。さらにマルチクラウド環境において、企業のコンプライアンスルールに沿ったアプリケーションのデプロイと更新を自動化できる。
マルチクラウド環境を運用するには、こうしたツールがなければなかなか上手くいかない。自らインフラ系のパブリッククラウドを提供しているベンダーでありながら、自社にユーザーを囲い込むことなくマルチクラウドを本格的に運用するためのツールを提供しているところは、今のところIBM以外にはない。さらにIBMでは「ツールで解決できないマルチクラウドの問題は、Global Business Service部門がコンサルティングのサービスとして解決できる」(三澤氏)。マルチクラウドを実現するために、トータルなITサービスを提供できるのがIBMの強みだとしている。
IBM Cloudであれば、データセンター間の通信費用は無償。遠隔地拠点を活用する災害対策構成をとる際に大量なデータを移動させればネットワーク通信コストがかさむことも多く、無償で通信できるIBM Cloudには、遠隔地災害対策構成で大きな優位性があるという。「シングルクラウドの中で、遠隔地災害対策や高可用性構成をどう見極めていくかが重要だ」と三澤氏。特に既存のレガシーシステムをクラウド化する場合は、マルチクラウドで運用することよりも、シングルクラウドの中でいかにミッションクリティカルな要件を満たす運用ができるか、それを考える必要があると指摘する。
NTTコミュニケーションズ
自社クラウド、データ活用の起点に
NTTコミュニケーションズは、データ利活用に必要な機能をワンストップで利用できる「Smart Data Platform」の提供を19年9月に開始した。これはデータマネジメント基盤、データセキュリティ、インターコネクト、ストレージ、データインテグレーションなどの機能で構成されるクラウド上のプラットフォームで、データを利活用して企業のデジタル変革や社会課題を解決し、「Smart World」を実現する。その基盤となるのがSmart Data Platformというわけだ。
NTTコミュニケーションズの林雅之エバンジェリスト
このSmart Data Platformで提供されるインターコネクトのサービスが、NTTコミュニケーションズのマルチクラウド戦略の武器となる。そう説明するのは、NTTコミュニケーションズの林雅之・クラウドサービス部エバンジェリストだ。「NTTコミュニケーションズでは、基本的には自社でクラウドサービスを提供し、その上で各社のパブリッククラウドとインターコネクトでつなぐ」と言う。
例えば、顧客情報など個人にかかわる機密情報は、Smart Data Platformを中核とするプライベートクラウドで安全に取り扱う。その上でSmart Data Platformで機密情報に匿名加工を施し、個人を特定できない形にしてからGoogle Cloudの「BigQuery」やAWSの「Amazon Redshift」に渡し分析を行う。そういった使い方を想定しているのだ。
またSmart Data Platformのデータインテグレーション機能を活用する、マルチクラウドの形もある。SalesforceやBox、さらには「SAP ERP」などに分散するデータをインターコネクトの機能でSmart Data Platformに収集、蓄積する。Smart Data Platformには各種データを統合するための「iPaaS(integration Platform as a Service)」があり、それを活用することで各種データベースやアプリケーションから容易に統合されたデータを活用できる。
2019年8月23日午後、「Amazon Web Services(AWS)」東京リージョンで大規模な障害が発生した。東京リージョンの一部のアベイラビリティゾーンで「Amazon EC2」などが停止。サービス復旧までには10時間ほどかかり、その間、AWSを利用していた決済サービスやオンラインゲームなどが利用できない状況も発生した。