Special Issue

<BCN DataCenter Meeting 2012> 「データセンター」のいまと次代への足がかり

2012/05/23 19:56

エクイニクス・ジャパン
代表取締役
古田敬 氏
江崎 これまでのお話からすると、ユーザーはBCPなどを考慮すればコスト増を許容できると考えているということですか。

山井 設備としてのDCのサービスはコモディティ化していますし、BCPだけでなくユーザーが自前の設備をもたずにアウトソースする動きも多くなっています。その点を考慮すると、単価をどう捉えるかでコストの考え方が変わってくる。
 当社は、DC単独のサービスの割合は多くはありませんが、他のサービスのベースにはすべてDCがあります。そこで、ネットワークやサービスなどと、どのように組み合わせてビジネスを展開していくかをテーマとしており、それによってユーザーの多様なニーズに対応していきます。ただし、設備が全国に分散しているので、どう組み合わせるかが悩みどころでもあります。

江崎 よくユーザーから「地方のDCはレイテンシー(遅延)が問題だ」と聞くのですが、実際はどうなのでしょう。

田中 それを気にするお客様には、東京のDCを選択してもらいます。石狩でもラウンドトリップで15msec前後なので、たいていのユーザーは無視できるレベルですが、それでも気にする方はいますね。

IDCフロンティア
ビジネス推進本部 カスタマー
コミュニケーション部 部長
粟田和宏 氏
粟田 国土の広い米国と比較すれば、日本のレイテンシーはないに等しく、それを理解しているユーザーは気にしません。とくにコンテンツサービスやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)をビジネスにされている方は、コストを抑えながらいかに早くビジネスをスタートできるかという視点で話をされます。視点のレベルが一段高く、決断がとても早いと感じます。

日置 当社のユーザーの多くは、レイテンシーを気にする方々です。「0.1msecでも速く」という要望がある。実際、少しでも速いサービスが登場すると、一気にそちらに流れてしまいます。

●ユーザーニーズに応えるために利便性を高める

江崎 次に、世界と比較した日本のDCの設備とコストを考えたいと思います。一般に、日本のDCはクオリティは高いが、建物や土地が高い。電力料金もさらに上がるといわれています。その点についてはどうお考えですか。

古田 アジア全体を俯瞰してみると、日本の電力料金は必ずしも高いとはいえません。シンガポールや香港は日本より高いですし、インドは安定供給に問題があって、頻繁に停電します。一方、建築費などの設備に関しては、日本はかなり高い部類に入ります。

関電システムソリューションズ
ITサービス事業本部 ITサービス統括部
データセンター営業G 営業部長
福嶋利泰 氏
日置 当社も海外でオペレーションをしていますが、それほど海外が安いというイメージはないですね。また、コストが理由で海外に出ていくユーザーもいません。

高倉 土地代が高いのは確かですが、それも利便性とのバランスだと思います。当社は国内だけなので海外との比較はできませんが、それでも電力料金値上げのインパクトは大きく、自助努力ではもう対応できません。

江崎 電力料金値上げの問題では、JDCCでも日本の産業界がDCをもっと戦略的に活用すべきだと提言しています。例えば、公的な支援もあるべきだと思いますか。

古田 産業界全体でみると、電力の大口ユーザーは重化学工業が中心です。いくらDCが電気をたくさん使うといっても、重化学工業に比べるとその量は少なく、そのためDC業界の発言力はやや弱いですね。

粟田 ただ、一般からは見えにくいのですが、今やDCは重要な社会インフラの一つです。金融や行政はもちろん、病院などに導入されているITシステムはDCが支えています。

江崎 東日本大震災のとき、インターネットをはじめ、SNSやTwitterは問題なく使えたという事実は、国民に広く認識されたと思います。DCによってサーバーが確実に保護されていたから可能になったといえるのではないでしょうか。

IIJ
執行役員
サービスオペレーション本部長
データセンター業務運営統括
山井美和 氏
古田 それでも、コスト意識は変えていかなければならないでしょう。例えば、BCPは100%がコストで、それ自体は利益を生みません。海外企業に比べ、日本企業は資本利益率に対する認識が甘いと感じており、今後世界の中の日本として競争していく上で、事業継続性を維持しつつコスト意識を高めることにさらなる努力が求められると思います。

江崎 私見ですが、BCPでは保険業との組み合わせがピッタリくると考えています。BCPは、どうすればビジネスとして成立すると思いますか。

高倉 BCPだけでは難しいのですが、要はユーザーが使えるサービスにしていくことだと思います。DCはあくまでバックグラウンドで、例えばコストやロケーションなどへの要望にいかに応じていくのかが重要です。同時に、ユーザーがITを活用する際の負担を極力減らして、本業に専念してもらえる環境を提供することですね。

山井 当社のサービスを使っていただけば、BCPにも確実に適応できると感じてもらうことだと思います。BCPもDCというインフラ上のアプリケーションの一つに過ぎませんし、BCPだけを目的にするビジネスはありません。

福嶋 関西でも、BCPを主目的にDCを活用するケースは少ないですね。ただ、阪神大震災のときにBCPで苦労した企業や鉄道をはじめとする、止めてはならない業務に関わる企業は、BCPに真剣に取り組んでいます。また、専任の情報システム担当がいない中小企業などでは、万が一のときの対応の負荷を減らしたいという目的でDCの活用を検討するケースが多いですね。

日本データセンター協会
理事/東京大学大学院
江崎浩教授
江崎 DCの社会的役割についての考えを聞かせてください。

古田 当社の使命の一つはデジタルエコノミーを支援することです。具体的には、安定したインフラとインターコネクションの提供です。当社がビジネスを展開している13か国の中で日本は2、3位の大きな市場ではありますが、他の国と比べ、やや特異性をもった市場でもあります。私個人の思いとして、日本がガラパゴス化しないようにしたいと願っています。

山井 当社は昨年、島根県松江市に進出しました。地元の誘致と助成があったからですが、結果として地元のIT利活用の進展や地域活性化を通じて地域振興に貢献することができています。この経験は、東北地方の復興にも役立つのではないかと考えています。

田中 DCはあくまでも手段であり、どう活用するかを考えて、世の中を啓発し、需要をつくり出すことが重要です。実は石狩DCは海外から注目されているのですが、日本のDCは数少ない成長産業として、もっと海外に目を向けるべきだと思います。クオリティが高く、サービスも多様で、関税がかからない輸出というメリットもありますし。

江崎 日本と比べると、海外のDCはまだ「DC 1.0」の段階ですね。

高倉 DCビジネスは、人を減らしていかに自動化・省力化するかを追求するので、雇用の受け皿にはなれません。ただし、DCの収容率が上がればエネルギー効率も上がる。結果として社会貢献になります。

福嶋 皆さんが話されているように、ユーザーはDCに入ることを目的にしているわけではありません。ですから、いかにわかりやすく、使いやすくするかがミッションだと考えています。

粟田 やはりお客様に寄り添うことですね。できるだけリーズナブルに、迅速かつ汎用性をもってサービスを提供することで、お客様のビジネスの発展に貢献する。それによってわれわれのビジネスも発展します。

日置 当社は金融関連のお客様が多いので、何かあったときの影響は計り知れません。ITシステムを決して落とさず、ビジネスを確実に継続できる環境の提供こそが一番の社会貢献だと考えています。


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