グループをシンプルに整理統合
──具体的に、非上場化することで何が変わるのでしょうか。 内野 一番大きいのは、組織をドラスティックに変えることができるようになることです。上場企業は、大きな組織変更について株主の了承を得るのに多大な労力を要する。例えば社長がラインのトップを兼務できないなどの制約があります。
私は、グループをシンプルなかたちに整理・統合したいと考えています。現在、1stホールディングスのグループには、持株会社と事業会社があり、事業会社も開発と営業に分かれています。これから起こり得る環境の変化に対応するために、いろいろ変革をしていかなければならない。そう考えると、現在の体制は機動性の面で問題があります。
私自身の役割も、場合によってはラインの統括をしてもいい。営業部隊を率いて、マーケットの前線に立って市場を肌で感じることで、経営者としての感覚も磨かれ、より適切なジャッジができるようになるでしょう。上場してから今までの私は、IT市場との距離が遠かった。これが率直な気持ちです。ですので、自分自身がその課題を解決できるような立ち位置に就くつもりです。
──ソフトベンダーの置かれた市場環境の変化という点では、現状をどう分析しておられますか。 内野 例えば、エンドユーザーには非常に大きな変化がみえます。IT投資の意思決定の主体が、情報システム部門からより現場に近い部門に移っている。私たちがこれまで、システムインテグレータ(SIer)から情報システム部門へ、という流れでソフトを売っていたビジネスモデルが、どんどん変わっています。この変化を現場で感じなければ、本質的な意味で事業の舵取りはできません。
ユーザー企業の経営者が、業務効率化のためのIT投資ではなく、利益を生み出すためのIT投資を意識し始めています。米国などでは、何年も前からそういうトレンドがありました。ビッグデータのブーム到来などで、日本でもようやくそうした動きが顕在化してきました。
これは、市場があるべき姿に変わっている喜ばしい傾向で、IT業界にとっては追い風です。経営者が直接の利益を生み出さない投資に消極的になるのは当然で、効率化というメリットしか提供できないIT製品に対しては、年々投資が尻すぼみになるだけです。そういう意味で、ビッグデータの分析・活用などは、まさに本質的なコンピュータの利用のあり方といえるでしょう。
従来型のパッケージソフトビジネスから脱却
──成長のチャンスがあるということはわかりましたが、ビッグデータという切り口では、1stホールディングスがもっている技術はBI(ビジネスインテリジェンス)などに限られています。今後、その波に乗るためにどのような戦略を展開していくことになるのでしょうか。 内野 当社が定義するビッグデータは、単純に膨大な量のデータということではなく、「今まで活用しきれていなかった企業の内外にあるさまざまなデータを経営に役立てる」ということです。これは今までも手がけてきた実績があります。
立ち位置として、ビッグデータ活用のすべてをわれわれがカバーしようとは思っていません。一定の分野にフォーカスして、尖った製品を出していこうと思っていて、それは現在でもある程度実行できていると自負しています。
同時に、もう少し上流の仕事も手がけたいと考えていて、何年も前から、コンサルティング部隊や当社製品を中心としたインテグレーション部隊を強化しています。現在、帳票、BIを含めて40人ほどの体制になっています。ライセンスソフトの開発・販売でやってきた会社としては大きい規模だと思っています。
また、米セールスフォース・ドットコム(SFDC)と資本・業務提携して、BIなどをSFDCのクラウド基盤上で利用できるサービスを提供しているほか、クラウドプラットフォーム、マネージドセキュリティサービスを提供するバリオセキュアを買収するなど、当社製品をクラウドで利用するための基盤整備を進め、ビジネス拡大のための手も打ってきています。
──インテグレーション部隊も整備されているということは、製販の体制についても大きな変化が出てくるということでしょうか。 内野 一部、従来のパートナーと競合する部分が出てくる可能性は否定はできません。しかし、業界のなかでは、当社の今回の決断をポジティブに受け止めてくれている方も多く、市場を変える役割を期待されているという実感もあります。SIerの現在のビジネスモデルが長続きしないのは間違いない。どのように付加価値を提供していくかということを誰もが真剣に考えなければなりません。
パッケージソフトの従来のビジネスモデルを壊したいというのが私の率直な気持ちです。この10年で、スクラッチでシステムをつくりあげる時代は終わり、ユーザーが求める機能をサービス型で提供する時代になりました。ベンダーには、IT市場の声をダイレクトに製品開発・提供に結びつけられる組織をつくり、状況に応じて中・長期的な視野で戦略を立案・実行していくことが求められています。
今回の非上場化は、その素地をつくるための措置です。いずれにしろ退路は断ちましたので、非常にすっきりした気持ちです。ぶれることなく、新たな体制づくりを粛々と進めていきたいですね。
・FAVORITE TOOL TUMIのバックパック。4年間、ほぼ毎日使っている。「普通のビジネスバッグよりも背負ったほうがアクティブに仕事ができるが、リュックだと少し遊びっぽく見えるので、ビジネスバッグに近い機能と外見のものを選んだ」とのこと。頑丈なところも気に入っており、海外出張の相棒でもあるという。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「会社、事業、社員はもちろん守っていかなければならないが、私個人のレベルで何かを失うことに対する恐怖はない」と言い切る内野社長。今の心境を「腹が据わって、覚悟が決まった状態」だと説明する。
公開買い付けも無事に終了し、来年には、グループ体制の見直しをはじめ、大きな変革を実行する予定だ。その構想もすでに「自分の頭の中にはあるが、まだ誰にも言っていない」といたずらっぽく笑う。
同社を取り巻く事業環境の変化はめまぐるしく、ビジネスチャンスがみえてはいても、実際にそれをものにできるかどうかは予断を許さない状況だ。だからこそ、上場廃止後の新たな事業展開を、誰よりも内野社長自身が楽しみにしているようにうかがえた。
新たな経営体制には、今回のMBOに協力したオリックスからも非常勤の役員が参画する予定。そうしたなかで内野社長がどのような舵さばきをみせるのか。興味深く見守りたい。(霞)
プロフィール
内野 弘幸
内野 弘幸(うちの ひろゆき)
1956年12月、東京生まれ。1979年、明治学院大学経済学部卒業。オフコンディーラーでの営業、SEを経て、ソフトウェア開発会社へ転職。2004年、専業事業拡大のため分社独立によって、ウイングアークテクノロジーズ(現ウイングアーク)設立。代表取締役社長に就任。2009年、持株会社体制への移行に伴い1stホールディングス代表取締役社長に就任。
会社紹介
業務アプリケーションを補完する帳票ソフトウェアや、BI(ビジネス・インテリジェンス)などのミドルウェア製品を販売するウイングアーク、BI製品開発を担当するディジタル・ワークス、セキュリティサービスの開発・販売を手がけるバリオセキュアなど、事業子会社6社を傘下に置く持ち株会社。2009年11月、ウイングアークテクノロジーズから商号変更した。