市場は横ばいでも売り上げを伸ばす
──SMBマーケットの開拓に集中しているSIerのトップである生貝さんに、改めてシンプルな質問をさせてください。国内のSMBマーケットは、長期的にみて拡大しますか。 生貝 大きくはならないでしょう。
──即答ですね。だとすれば、FJMの将来は明るくないのでは? 生貝 それは違います。SMBとひと括りにして語られますが、SMBといっても千差万別ですよね。規模は違うし、業種だっていろいろある。業績が伸びていてIT投資を増やす会社もあれば、苦しい状況でITに費やすお金がない会社も存在する。それらをすべて足し合わせて総合的にみれば、国内SMBのIT投資はフラットだということです。
ただ、だからといってFJMのビジネスが伸びないわけではない。市場全体は横ばいでも、売り上げを伸ばすことはできます。
──どう伸ばしますか。 生貝 戦略は極めてシンプルで、IT投資意欲が高いSMBを見つけることです。SMBのなかでも業績が好調で、IT投資額の多い企業は確実に存在します。まずはITに積極的に投資するSMBを見つけ出して、業種や規模を調べる。富士通グループとの取引の有無も調査してターゲットを特定し、その後にパートナーとともに提案に向かいます。
FJMの東京本社の調査チームは、2期連続で増収増益のユーザー企業を抽出してプロフィールを調べ、その資料を全国の支社・支店に配布しています。各支社・支店はその資料を自社営業担当者とパートナーに伝え、現場は業績が好調な企業の攻め方を考えて実行する。こうした取り組みを全国で行っています。
──FJMの昨年度(2013年3月期)売上高は1733億円。早期の2000億円突破を目標に掲げておられますが、伸びる分はすべて国内のSMB市場で獲得するつもりですか。 生貝 そのつもりですが、大企業や大規模な自治体、医療や学校などの公共機関の一部もFJMが手がける可能性はあります。
──SMBマーケットに集中するという方針が若干変わるということですか。 生貝 いや、方針に変更はありません。ただ、「大企業は富士通、SMBはFJM」という区分け方法が場合によっては適さないのではないか、と感じているんです。従業員の数や年商で区切るのはわかりやすいのですが、地域やユーザーの業種によっては、大企業でもFJMとパートナーが提案したほうがいい場合があるように感じています。改めて、どのような棲み分け方が最適かを富士通と議論して見直すつもりです。
例を挙げれば、介護施設。FJMは、規模を問わず介護施設向けのSIに非常に強く、この分野では大規模な介護施設でも、FJMとパートナーがアプローチするのが適していると感じています。
海外市場は「徐々に着実に」伸ばす
──国内SMB市場をメインターゲットに据える考えは不変のようですが、海外市場には興味をもっておられますか。 生貝 当然、興味があります。この先も継続して成長するためには、海外でのビジネスは必須になります。私たちのユーザーも、海外に進出するケースはあたりまえになってきて、海外拠点の面倒もみてほしいという要望も増えてきましたし、ニーズも感じています。中国では子会社を通じて、現地の日系企業を中心に、IT環境の整備や中国に進出する際の手続き業務の代行、経営コンサルティングサービスを提供しています。ユニークなビジネスでは、中国の大手ショッピングサイトへの出店支援も行っており、先日はこのサービスで新潟県と戦略提携しました。
ただ、海外はそうやすやすと開拓できるマーケットではないと感じています。国内に比べてリスクもあるし、投資も必要。拙速に進めるようなことはしません。
──最近、海外に強い関心をもってチャレンジするITベンダーが増えています。皆さん、かなり高い目標をぶち上げて、威勢がいいようです。 生貝 海外市場の経済成長率が高いからといって、すぐに飛び出すわけにはいきません。当社ほどの規模では、そんなに大きな投資をすることもできませんし……。幸いにも、親会社の富士通は世界各国でビジネスを展開しています。拠点も複数存在し、その土地の事情を知っているスタッフもいる。私たちが単独で挑むのではなく、富士通と協力して、たまには手を借りて、徐々にかもしれませんが、着実に伸ばすつもりです。
──先ほど示された売上高目標の2000億円のなかで、海外市場はどの程度を占めますか。 生貝 いつ達成するかによりますが、ほぼゼロとみてもらって結構です。海外はそれほど甘くはありません。国内のSMB市場で強い組織を富士通とパートナーと協力して築くことが先決。海外市場は「徐々に着実に」です。
・FAVORITE TOOL 出張中のメールチェックやスケジュール確認で重宝している最新の富士通製スマートフォン「ARROWS」と、同僚・部下から10年ほど前に贈ってもらった万年筆。文房具にこだわりはなかったが、プレゼントされたことを機に、署名にはこの万年筆を活用している。
眼光紙背 ~取材を終えて~
生貝さんは、富士通で営業職を長く務めてきた。「技術者になりたくて富士通に入ったんだけど、意に反してずっと営業畑を歩んできてしまった(苦笑)。初対面の人と話すのが苦手で、最初は本当に苦労しました」という。人あたりが柔らかくて、質問に一つひとつ丁寧に答える。話す内容は現実的で、大風呂敷を広げない。慎重な経営者という印象だ。
「一つだけPRさせてほしい」と前置きして、饒舌に語ってくれたのが、FJMの営業担当者についてだった。生貝さんはFJMの営業力の強さにかなりの自信をもっている。そして、営業担当者の育成にこだわりがありそうだ。「富士通とFJMが担当する顧客の棲み分け方を見直す」という考えを述べてくれたが、その背景として、FJMの営業担当者に「先進的なビッグプロジェクトを経験させたい」という思いがある。生貝さんは、富士通で多くの大規模なユーザーを相手に営業活動を展開してきた経験がある。そこで得たノウハウは財産なのだろう。それをFJMに営業担当者にも伝授したいという思いを強く感じた。(鈎)
プロフィール
生貝 健二
生貝 健二(いけがい けんじ)
1952年1月1日、千葉県生まれ、76年4月、富士通入社。04年6月、自治体ソリューション事業本部長。06年6月、経営執行役。09年6月、執行役員(兼)公共ソリューションビジネスグループ副グループ長(兼)官公庁ソリューション事業本部長。10年4月、執行役員副社長。11年6月、執行役員副社長(兼)富士通マーケティング取締役(非常勤)。12年6月、代表取締役副社長。13年4月、富士通マーケティングの代表取締役社長に就任。
会社紹介
富士通100%出資のSIer。連結の従業員数は約3700人で、年商は1733億円(2013年3月期)。前身は富士通ビジネスシステム(FJB)で、2010年10月1日に現社名に変更した。中堅・中小クラスのユーザー企業・団体に顧客ターゲットを絞り、SI事業を手がける。直販のほか、パートナーを通じて富士通製品を拡販する間接販売も行う。