従来の販売店にも門戸は開いている
──販売店の話が出ましたが、従来の販社網とは別に、スマートチャージ専用の販社網を整備しておられると聞きました。 佐伯 すでに150社を超え、順調に増えています。おもしろいのは、事務機系の販売店は半分くらいで、あとの半分は非事務機系、例えばSIerやPCショップのようなところなんです。従来とはひと味違う展開が出現するのではと期待しています。
──非事務機系の販売店が多いとなると、既存の販売店から不満が出ませんか。新しいビジネスから排除されたという印象をもたれたり、スマートチャージ販社と競合してしまう可能性もあるように思えるのですが……。 佐伯 スマートチャージは、当社にとって新しい領域でのチャレンジですので、既存ビジネスと競合するとは考えていません。また、スマートチャージの取り扱い条件は明確にしているので、従来の販売店にも、それさえ満たしていただけるのであれば、当然、商材としてラインアップしてほしいと考えています。門戸は開いているのです。
──ゆくゆくは、販売店を250社にまで増やす計画も明らかにされています。 佐伯 例えば、強力な競合であるキヤノンのコピー機の販売パートナーは約250社とみているので、まずはそれと同規模で、全国をカバーできるネットワークを早々に築きたいということです。
注意しなければならないのは、コピー機系のパートナーはメーカーに対する忠誠心が非常に強いので、導入が手軽なスマートチャージのビジネスモデルと同列には考えられないということです。販売店をもっと増やさなければ、競合と互角には戦えない可能性もあります。そのあたりは、スマートチャージの今後の手応えをみながら判断していくことになります。
ただ、今は、しっかりしたサービス体制をもっている信頼できるパートナーとビジネスを確立することに力を注ぐフェーズだと考えています。
──8月21日にサービスを開始したばかりですが、販売店、ユーザーの反応はどうでしょうか。 佐伯 エンドユーザーの認知度を高めて、リード(見込み顧客情報)を創出しようということで、5月の発表以来、マスメディアに積極的に広告を出すなど、さまざまな取り組みを進めてきました。その結果、販売店にはお客様からの引き合いがかなり来ています。とくに事務機系の販売店は、これまでお客様側から自発的に声をかけられるということはまずなかったので、新鮮な驚きがあるようです。スマートチャージに対して、新しい顧客を獲得するためのツールとして大いに期待してもらっていると感じます。
当初はスモールビジネスのお客様が多いと想定していましたが、巨大な支店網をもつ企業のブランチへの導入案件も出てきています。従来コピー機をもっていなかったお客様の新規開拓にもつながっていますし、市場を広げているという実感があります。
「ビジネス用はレーザー機」の意識を払拭
──スマートチャージの販売目標は初年度2万件でしたね。 佐伯 達成できるという手応えはあります。
──従来の「箱売り」よりも薄利多売のビジネスモデルになると考えていいのでしょうか。 佐伯 それほど薄利の商売だとは考えていません。5年契約になるので、トータルでみるとまとまった金額をいただくことになります。採算は十分取れます。
──レーザー機陣営が同様のサービスを投入してくる可能性はありませんか。 佐伯 当然あり得るでしょう。ただ、レーザー機は、消耗品を大量に使えばチャージ料金は安くなりますが、少量しか使わなければ高くなるというバランスの取り方をしているので、同じビジネスモデルが成立するのか、やや疑問があります。
当社は、大量のインクを基本料金に含めていますし、メンテナンスのやり取りも少なくなるように製品・サービスを設計しています。スマートチャージは、インクジェットの強みを生かしたビジネスモデルであって、苦し紛れに安売りしているわけではありません。
──販社網が整った時点で年間3万件の契約獲得を目指すとのことでしたが、どんな手を打っていきますか。 佐伯 今のところ、製品としての品揃えは中速機しかありませんので、将来は、高速機を開発して、スマートチャージで提供するということは考えています。より訴求対象を広げるために、サービスの内容は、毎年バージョンアップしていく計画です。
ただ、お客様のイメージとして、「ビジネス用はレーザー機」という意識が固定化している傾向は依然としてあります。その意識をいかに短期間で払拭できるかが勝負だと思っています。われわれは、そういう挑戦を昔からやってきました。「銀塩じゃなければ写真じゃない」と写真業界に総スカンを食らいながらも、インクジェットの写真プリントをデファクトにした実績もあります。従来の常識を超越した「否・常識」への挑戦をそれなりのレベルでやってきたという自負があります。スマートチャージという「否・常識」の価値を販売店に浸透させ、お客様に受け入れていただくためにも、全社一丸となって、商品・サービスの完成度を絶対的な高みまで引き上げるという覚悟で取り組んでいます。

‘事務機系の販売店は、これまでお客様側から自発的に声をかけられるということはまずなかったので、新鮮な驚きがあるようです。スマートチャージに対して、新しい顧客を獲得するためのツールとして大いに期待してもらっていると感じます。’<“KEY PERSON”の愛用品>常時持ち歩く2本の筆記具 入社以来、モンブランのボールペンを使い続けている。「書き心地が非常にいい」そうで、現在のは二代目。4色ボールペンとシャープペンシルを合わせた多機能ペンとこのボールペンを常に持ち歩いている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
プリンタ市場は、一時期の落ち込みは脱したものの、各社とも、消耗品、保守サービスを含めて何とか利益を確保しようともがいているのが実状だ。そんななかでエプソン販売が打った一手は、オフィスのコピー、プリント機能を完全サービス化するというもの。ドラスティックな変化ではあるが、訴求する価値はシンプルだ。営業・マーケティング畑を歩んできた人らしく、明るく気さくな語り口が印象的な佐伯直幸社長の言葉の端々に、「必ず成功させる」という強い決意がにじみ出ている。
プリンタ以外にも、プロジェクター、高精度のセンサを売りにB2CからB2Bへの水平展開を目指すウェアラブルデバイスなど、エプソングループには多くの注目商材がある。インタビューのなかで印象的だったのが、佐伯社長の口から「これは提案するのが楽しい商品ですよ」という言葉が何度も出たこと。トップが自社製品のポテンシャルに心を踊らせている様子は、ビジネスの成功を確たるものにするための良薬になる。(霞)
プロフィール
佐伯 直幸(さえき なおゆき)
1959年9月、福岡県生まれの55歳。1983年、同志社大学経済学部を卒業してエプソン(現セイコーエプソン)に入社。エプソン販売システム営業二部長、Epson(Thailand)社長、エプソン販売ビジネス営業本部副本部長、同特販営業本部長兼新規業種開拓部長、同取締役特販営業本部長などを経て、今年6月、現職に就任。セイコーエプソン業務執行役員も兼務。営業、マーケティングを中心にキャリアを積んできた経営者だ。
会社紹介
1983年に、エプソン製品の販売会社として設立。主力製品のプリンタ、プロジェクター製品のほか、パソコン(PC)、POSシステム、業務ソフトなどもラインアップする。直販営業だけでなく、全国に事務機ディーラーなどの販売店網を展開する。販売店の数は非公開。2014年3月期の売上高は2070億円で、従業員数(正社員)は、2014年4月1日現在で1780人。