長崎市に本社を置く扇精光ソリューションズは長年、公共向けにビジネスを展開してきた強みを生かし、自社パッケージの開発を進めている。松尾隆宏社長は「ポジティブサイクルを回す」と意気込んでおり、これまでに蓄積したノウハウを生かした製品の全国への拡販に力を入れる構えだ。
(取材・文/大畑直悠)
官公庁・自治体が7割
――事業の紹介を。
測量機器の販売店として創業し、各事業の規模が拡大してきた中、2014年に建設コンサルタント関連事業を扇精光コンサルタンツ、情報機器販売やソフト開発関連事業を当社に分社化した。ソフトウェア開発、IT関連機器の販売、BPRやDX支援の事業を展開している。売り上げの構成は官公庁・自治体が7割、民需が3割ほどだ。公共に強いのは県庁や市役所の土木部などに測量用品を納めていたつながりで、ビジネスコンピューターなどを納入してきた経緯がある。このほか、警察、文教のGIGAスクールの支援にも実績があり、長年にわたって信頼関係を構築している。
ソフトウェア開発では自社開発したパッケージも展開しており、契約管理・工事成績評定管理システムを全国の50自治体に提供している。LGWAN上で利用できる点が特徴で、扇精光コンサルタンツが持つ知見を基に開発した。
――ビジネスの近況を教えてください。
25年4月期のビジネスは非常に好調だった。要因としては「Windows 10」のサポート終了に伴うリプレースや公共機関のDXの機運の高まりが挙げられる。公共に関しては、3~4年前まではいわゆる「デジタル格差」のような議論が活発で、場合によっては活用がためらわれることもあったが、現在では、地方こそデジタル技術を活用した便利な街づくりをして人口の流出を抑えたいという動きがある。ITの活用はすでに前提になっている。
民間に関してもスマートフォンやタブレットの利用が当たり前になる中、アナログな管理手法を止めて、ITツールを活用した便利な業務プロセスの構築を積極的に追求している。
自社パッケージを全国に展開
――今後の成長戦略を教えてください。
システム開発事業部に関しては全国をターゲットに拡販を進めている。どこの官公庁であっても抱えている課題には共通する部分が多いだろう。現在、当社で掲げているスローガンは「チーム力」と「ポジティブサイクル」だ。官公庁向けのビジネスの場合は、一つの案件の成功で他県の官公庁から注目されることもある。こうした事例を増やしてきたい。
松尾隆宏 代表取締役社長
自社開発のパッケージに関してはパートナービジネスも進めている。これまでは保守なども含めた自社の届く範囲のビジネスが中心だったが、ここを考え直す段階にあると考えている。ここ1~2年で数社とパートナー契約を結んでおり、北は青森まで含む販売網ができてきた。今後もパートナーとの協業は拡大する方針だ。
組織面では横のつながりをより強化し、これまでに蓄積した知見やノウハウをより生かす考えだ。システム開発では、建設に関する知見を基にした製品があるとはいえ、それ以外はまだ不十分だ。地方ベンダーならではの官公庁や警察といった業界との強いつながりを生かした開発を広げ、自社パッケージを拡充させる。
人材確保に関しては育成を含めた中長期的な視野を持って増員を図っていく。数年前に福岡支店を開設し、業績は非常に好調だ。現在はハードの販売や保守のビジネスが中心だが、今後はネットワーク構築のSEや営業、開発部隊の拡大を計画しており、すでに強みを持つ長崎や佐賀に続く新しい軸にしたい。
――大手ベンダーの動きはどうみているか。
為替の影響や人材不足といった影響から、大手ベンダーはよりスマートな経営が必要になっており、各地方にまで十分に手を回し切れない状況も生まれるだろう。当社のようなきめ細かいサポートができる地域に密着したベンダーの存在は、これまで以上に重要になるはずだ。
ITコンサル的な視点を重視
――地域企業のDX支援で重視することは。
顧客によっては、ITベンダーにDXの施策を丸投げしてしまったほうがコストに見合う場合もあり、上流からのアプローチが求められる。地域に根ざしたITベンダーは顧客のシステム環境全体を見渡す視点を持つことが重要だと考えている。当社でも人材の獲得には苦慮しているが、若手を中心に採用の分科会を組織し、営業職に特化した人材獲得のために活躍してもらっている。こうした中でも、当社の営業は、物を売るノルマがあるだけの職業ではなく、ITコンサル的な能力が必要なことを前面に出している。
――今後の抱負を。
当社ならではのパッケージの開発を推進したい。建設向けには、ゲーム空間内に3D地形データやCADデータなどを取り込んで構築した仮想空間を利用して、コミュニケーションが取れる仕組みなどを開発している。また、文教市場向けでも特別支援学校向けのシステムを開発している。こうした知見を持つIT企業はそう多くはない。さまざまな知見をつなぎ合わせながら、さらに強みを磨いていきたい。
Company Information
1958年創業の扇精光から事業分割し、2014年に設立。情報機器販売やソフト開発関連事業などを手掛ける。長崎県対馬市や福岡市などに支店を展開する。